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オウム真理教の松本死刑囚ら7人の死刑執行

オウム真理教の一連の事件で死刑が確定した13人の死刑囚のうち、松本智津夫死刑囚(元代表の麻原彰晃)、早川紀代秀死刑囚(68)、井上嘉浩死刑囚(48)、新実智光死刑囚(54)、土谷正実死刑囚(53)、中川智正死刑囚(55)、遠藤誠一死刑囚(58)の教団の元幹部7人の死刑が執行されました。
上川法務大臣は記者会見で、一連の事件の凶悪性や社会に与えた影響の大きさなどを強調した上で、「慎重にも慎重な検討を重ねたうえで執行を命令した」などと述べました。
これに対し、死刑制度に反対している国際的人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は、

日本政府は「世論が望む」から死刑執行は避けられない、と繰り返し主張してきた。しかし、本来、国がすべきことは、一歩踏み出して、人権尊重を主導することである

などと指摘した上で、死刑に反対する声明を発表しました。

これまでの経緯

国際的には死刑廃止国が多数

国際人権団体「マムネスティ・インターナショナル」のまとめによると、2017年末時点で142か国が法律上あるいは事実上死刑を廃止しています。
1989年には国連総会で死刑廃止条約が採択され死刑の廃止国は増えていきましたが、日本では死刑制度を支持・容認する世論が多いのが現状です。2016年10月に日本弁護士連合会が「2020年までに死刑制度の廃止をめざすべきだ」とする宣言を賛成多数で採択しましたが、死刑制度廃止の機運は高まっていません。
なお、日本の死刑の執行方法である絞首刑が憲法の禁じる「残虐な刑罰」に当たるかどうかについては、1948年に最高裁が合憲、つまり憲法に反しないとの判断を下しています。

賛否両論(死刑制度)

死刑「反対派」の意見

  • 国際社会では死刑廃止の流れが定着している
  • 冤罪の可能性もある中で、死刑は取り返しがつかない刑罰だ
  • 死刑に犯罪抑止力があるかどうかは立証されていない

死刑「支持派」の意見

  • 多くの国民が死刑制度を支持している
  • 凶悪犯罪の被害者遺族の処罰感情に答える意義もある
  • 死刑があることで犯罪を抑止する効果がある

新聞各社の主張(死刑制度への賛否)

朝日新聞死刑制度にやや反対

朝日新聞は2018年7月7日の社説で、7人の死刑執行を決めた理由や松本死刑囚の精神状態について、上川法務大臣が説明を避けたことを指摘した上で、

世界からも注目が集まる事件で、従来どおりの秘密主義を貫いたのは残念だった。多くの国が死刑廃止に向かうなか、日本は世論の支持を理由に制度を存置している。だがその実態は国民に伝えられず、刑罰のあり方をさまざまな観点から議論する土台が形づくられているとは言いがたい。考えを見直し、できる限りの情報公開に努めるよう、改めて求める

と主張。死刑制度そのものに反対はしていませんが、情報公開が不十分だという立場です。
過去の社説での主張を振り返ると、2016年10月9日には「死刑廃止宣言 日弁連が投じた一石」というタイトルで社説を掲載。日本弁護士連合会が「2020年までに死刑制度の廃止をめざすべきだ」とする宣言を賛成多数で採択したことについて、

批判や反発、抵抗を覚悟のうえで、日本弁護士連合会が大きな一歩を踏みだした

会内で積みあげてきた協議と成果を社会で共有し、この道筋を確かなものにしたい

と評価。

死刑は執行したら取り返しがつかない刑罰だ。だが人が裁く以上、間違いは必ず起きる

と死刑制度の問題点を指摘。また、

死刑に犯罪を抑止する効果があるとの仮説は立証されていない

OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国で続けているのは日本と米国の一部の州だけだ。国連の委員会からはくり返し是正勧告を受け、日本に注がれる視線は厳しさを増している

などととした上で、

刑罰のあり方も状況に応じて見直されてしかるべきだ。いまの姿に縛られ思考をとめてしまっては、時代の変化からも、世界の流れからも取り残される

などと訴え、死刑制度に反対の立場です。

毎日新聞中立

毎日新聞は2018年7月7日の社説で、

死刑制度については、死刑廃止国が140カ国を超え、執行している国を大きく上回っている。一方、死刑の存廃については、各国の事情などに応じて独自に決めるべきだというのが日本政府の立場だ。どう死刑制度と向き合っていくのか。そこもまた問われている

として、死刑制度の是非には踏み込まず、中立の立場です。
過去の社説を振り返っても、2016年10月に日弁連が死刑制度の廃止を目指す宣言を採択したことを社説で取り上げていないなど、死刑廃止の主張とは距離を置いています。

日経新聞中立

日経新聞は2018年7月7日の社説で、死刑制度そのものに関わる言及はありません。過去の社説を振り返っても、死刑制度の是非に関わる社説は掲載していません。

読売新聞死刑制度に賛成

読売新聞は2018年7月7日の社説で、

言うまでもなく、死刑は究極の刑罰である。上川氏は「慎重にも慎重な検討を重ねて執行を命令した」と強調した。今後もこの姿勢を堅持していくことが大切だ

として、慎重な検討を前提とした死刑の執行に賛成の立場です。
過去の社説での主張を振り返ると、2017年7月24日の社説の中で、日弁連が2016年10月に死刑制度の廃止を目指す宣言を採択したことを紹介した上で、

死刑制度の存置を求める弁護士は少なくない。犯人が極刑になることを願う犯罪被害者の支援に取り組む弁護士もいる。個人の思想・信条にかかわらず、業務に携わる弁護士は、必ず日弁連に登録しなければならない。強制加入団体が、賛否の分かれるテーマについて意見を表明することに、問題はないのか

と疑問を呈した上で、

内閣府が15年に公表した世論調査で、死刑容認は8割を占めている。日弁連は、世論と主張の乖離にも留意すべきだ

と指摘しています。

産経新聞死刑制度に賛成

産経新聞は2018年7月7日の社説で、

わが国が、死刑制度を有する法治国家である以上、確定死刑囚の刑を執行するのは当然の責務である。法の下の平等を守り、社会の秩序を維持するためにも、これをためらうべきではない(略)国家の転覆を図った一連の事件の異常性、残虐性に鑑み、被害者や遺族、家族の処罰感情を考慮すれば、刑の執行を躊躇(ちゅうちょ)する理由は全く見当たらない

として、死刑制度および今回の死刑執行に賛成の立場です。
過去の社説での主張を振り返ると、2016年10月12日には「死刑廃止宣言 国民感情と乖離している」というタイトルで社説を掲載。日弁連が死刑制度の廃止を目指す宣言を採択したのに対して、

日弁連は、宣言提起の理由のひとつに先進国の多くが死刑を廃止しているという「世界的潮流」をあげる。だが、まず考慮すべきは、日本国民の刑罰観や倫理観であろう

と主張した上で、世論調査では死刑存続派が圧倒的多数であることを紹介しています。冤罪による執行はあってはならないと指摘しつつ、

通り魔事件や無差別テロ、逆恨みによる殺人などの凄惨(せいさん)な犯罪が現実に存在する。厳刑をもってしか償うことができない罪はある。被害者遺族の強い処罰感情に司法が十分応えることができなければ、国は成り立たない。死刑制度の維持は、悲惨な犯罪を国、社会、国民が許さない、受け入れないという意志、決意の表れでもある

として、死刑制度を支持し、日弁連を批判しています。

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