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働き方改革関連法が可決・成立

2018年6月29日、参議院本会議で、政府・与党が今国会の最重要法案と位置づける「働き方改革関連法案」の採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会、希望の党などの賛成多数で可決・成立しました。
最大の焦点となった、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」については、立憲民主党や国民民主党などの野党や連合、過労死遺族などは「長時間労働を助長しかねない」などと強く反発しています。
今後は、来年4月の導入にむけて、制度の詳細を定める厚生労働省の省令に、対象となる業務や年収要件などがどのように明記されるかが焦点となります。

働き方改革関連法案の主な内容

「高度プロフェッショナル制度」

働いた「時間」ではなく「成果」で評価するための新たな制度で、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外します。制度が適用されると、残業や休日出勤をしても労働者に割増賃金は支払われません。一方で、労働者の健康確保のため、年間104日以上、4週間で4日以上の休日を確保することなどが義務づけられます。
対象となる「高収入の一部専門職」は、年収1075万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントなどが想定されていて、労働者の3%未満となる見通しです。正式には、法案が成立した後、労使双方が参加する国の労働政策審議会で議論し、厚生労働省が省令で定めます。
この制度のもとでは、残業や休日出勤をしても割増賃金が支払われなくなるため、野党などは「残業代ゼロ法案」などと批判しています。
施行予定日は、2019年4月1日です。

「時間外労働の上限規制」

現行制度では、経営側と労働者側が時間外労働に関する労使協定(36協定)を結べば、残業時間を事実上青天井で延ばすことができます。これに対し今回の法案では、長時間労働を是正するために、時間外労働の上限を原則月45時間・年間360時間とします。特別な事情がある場合は、年間6か月まではさらなる時間外労働を認めますが、最大でも年間720時間・月100時間未満としています。
この規制に違反した企業への罰則(6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金)も盛り込まれました。これに対して、月100時間の残業は「過労死ライン」であり、もっと厳しくすべきとの批判があります。施行予定日は、大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日です。
なお、トラック・バスなど自動車運転の業務や建設業、医師については法案の適用対象外とし、2024年4月に上限を設定するとしています。

「同一労働同一賃金」

同じ内容の仕事に対しては同じ水準の賃金を支払うという考え方で、企業に対し、正社員と非正規労働者の不合理な待遇の差を禁止し、待遇差が出る場合は理由を非正規労働者に説明することを義務づけます。また、すべての企業に対し、労働者の健康を確保するため労働時間を客観的に把握することを義務づけます。
施行予定日は、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日です。

「インターバル制度の努力義務化」

「インターバル制度」とは、退社と翌日の出社までの間に一定の休息時間を設ける制度です。法案では、制度の導入を努力義務としました。
これに対しては、努力義務では不十分との批判があります。施行予定日は、2019年4月1日です。

これまでの経緯

第1次安倍政権時代から模索、10年ごしで実現へ

労働時間の規制緩和策について、2007年の第1次安倍政権は「ホワイトカラー・エグゼンプション」という名前で導入を目指しましたが、長時間労働を招くとの批判も強く、国会への提出を断念しました。
政権に返り咲いた後、2015年には「脱時間給制度」の創設を柱とする労働基準法改正案を閣議決定しました。しかし野党の反対もあり国会で審議入りできず、廃案となりました。
その後、2016年10月に広告代理店・電通の新入社員が過労自殺したことをきっかけに長時間労働の是正を求める世論が高まったことも背景に、2017年3月、安倍首相と経団連の会長、連合の会長による「政労使会談」で、残業時間の上限規制について合意します。そして同月、安倍首相が議長を務める「働き方改革実現会議」が「実行計画」を取りまとめました。

法案から「裁量労働制の対象拡大」を全面削除

安倍政権は当初、実際に働いた時間にかかわらず一定時間働いたとみなす「裁量労働制」について、対象業務を広げる内容も「働き方改革関連法案」に盛り込む方針でした。
この論点をめぐり、安倍首相は2018年1月29日に国会で「裁量労働制の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と答弁しました。
しかし、この答弁の根拠となったデータについて、単純に比較できないものだったことやデータそのものにも多くの異常値が見つかります。
安倍首相はこの答弁を撤回する事態となり、法案から「裁量労働制の対象拡大」については全面削除を余儀なくされました。
そして2018年4月6日、安倍政権は法案を閣議決定しました。

賛否両論(高度プロフェッショナル制度)

批判

  • 長時間労働を助長しかねない
  • 対象となる職種や年収要件が拡大するおそれ
  • 労働者は立場が弱く、実際には拒否できない
  • 対象外の労働者に不正導入される懸念
  • 企業に義務づけられる健康確保策は不十分

政府の説明

  • 多様で柔軟な働き方を実現する
  • 対象となるのは高収入の一部の専門職だけ
  • 適用には労働者本人の同意が必要で、離脱も可能
  • 事業所に対する監督・指導を徹底する
  • 企業には労働者の健康確保策が義務づけられる

新聞各社の主張(高度プロフェッショナル制度への賛否)

朝日新聞(2018年6月30日社説やや反対

高度プロフェッショナル制度について

政府は当初、「働く人にもニーズがある」と説明した。しかし具体的な根拠を問われて示したのは、わずか12人からの聞き取り結果というお粗末さ。審議終盤、首相は「適用を望む労働者が多いから導入するのではない」と説明するほかなかった

と指摘し、制度の必要性は「説得力に欠ける」と批判しています。
その上で、この制度が望まない人には適用されないことをどう担保するのか「実効性のある歯止めをつくらねばならない」と指摘。

適用対象業務を含め、労働政策審議会での徹底した議論が必要だ

と訴えています。
また、働き方改革関連法に盛り込まれた「時間外労働の上限規制」については、「働き過ぎ是正に向けた第一歩だろう」と一定の評価をしつつも、

この上限も繁忙月では100時間未満と、労災認定の目安ぎりぎりだ。さらなる時短の取り組みが欠かせない

と指摘しています。

毎日新聞(2018年6月30日社説やや反対

働き方改革関連法に盛り込まれた「時間外労働の上限規制」については、

甘いとはいえ残業時間の上限を法律で明記した意義は大きい

と評価しています。その一方で、高度プロフェッショナル制度については、

本人が希望すれば対象から外れることになったが、上司との力関係で、高プロ適用を拒否できる人がどれほどいるのか疑問が残る

と指摘。制度の対象となる職種や年収を省令で定めることについても

なし崩し的に対象が広げられる恐れがある(略)経営側の利益のために制度が乱用されないよう、監視を強めるべきだ

と訴えています。

日経新聞(2018年6月30日社説賛成

働き方改革関連法の成立について

日本の生産性や成長力を高める改革の前進を歓迎したい

と高く評価。高度プロフェッショナル制度についても

個人の働きやすさややりがいを高める改革といえる

と評価し、野党などが指摘する問題点などには社説では触れていません。
その上で、

働き方改革関連法からは、仕事の時間配分を自分で決められる裁量労働制の対象業務拡大が、厚生労働省の調査データ不備問題で切り離された。できるだけ早期の対象拡大の実現を求めたい

と主張。雇用・労働分野の改革をさらに進めるよう促しています。

読売新聞(2018年6月30日社説やや賛成

働き方改革関連法について、「残業時間の罰則付き上限規制と同一労働同一賃金の推進が柱だ」と指摘した上で、

1947年の労働基準法制定以来の大改革だ。正社員との格差が大きい非正規労働者の処遇も改善する。長年の懸案解決に道筋をつけた意義は極めて大きい

と高く評価しています。
高度プロフェッショナル制度についても、

職種を限り、賃金と時間を切り離すことには合理性がある

と前向きに評価した上で、

残業代がなくなることで、長時間労働が助長される、との不安も根強い。新制度は、対象者の健康確保措置を企業に義務付けている。適正な運用が求められる

と課題を指摘しています。

産経新聞(2018年6月30日社説やや賛成

働き方改革関連法に盛り込まれた「時間外労働の上限規制」については、

労働者の心身の健康を守る上で残業時間に罰則付きで上限を設ける意義は大きい。ただ、残業が減ればその分、収入は減少する。従業員に対する還元策も同時に考えるべきである

と主張。企業に対し「ボーナスによる還元などの制度設計を急ぐべきだ」と促しています。
一方で、高度プロフェッショナル制度については、

労働生産性の向上に資する制度と位置づけられる。柔軟な働き方を促す選択肢としたい

と前向きに評価しつつ、

働き方を大きく変えるものだけに、政府は産業界への周知徹底を図り、働く現場で混乱が起きないようにしてもらいたい(略)国民の懸念を払拭しつつ、高プロに幅広い理解を得る努力が欠かせない

とも指摘しています。

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