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沖縄県知事選挙、辺野古移設に反対する玉城デニー氏が当選

2018年9月30日、翁長知事の死去に伴う沖縄県知事選挙が投開票され、野党が支援する前衆議院議員の玉城デニー氏が、与党などが支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを破り、初当選しました。
玉城氏は翁長知事の「後継候補」で、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設反対を訴えています。玉城氏の勝利によって、普天間基地の辺野古移設をめぐる沖縄県と国の対立は今後も続く見通しです。

これまでの経緯

普天間基地は「世界一危険な飛行場」

普天間基地は、沖縄県・宜野湾市にある在日アメリカ軍・海兵隊の基地です。民家などが密集する市街地の真ん中にあり、「世界一危険な飛行場」とも評されます。
2004年には基地近くの沖縄国際大学にヘリコプターが墜落する事故も発生しました。普天間基地の危険性をなくすために、沖縄県の名護市「辺野古」という場所の海上に基地を移す(新たに基地を造る)ことが計画され、2006年には当時の沖縄県知事および名護市長は、辺野古への移設で合意していました。

民主党政権「県外移設」発言をきっかけに迷走

辺野古への移設計画は、2009年に民主党の鳩山氏が「県外移設」を訴えたのをきっかけに迷走します。鳩山政権は別の移設先を見つけられず、けっきょく元の案、すなわち辺野古に移設する計画に戻りました。
しかし、鳩山発言によって辺野古への移設に反対する沖縄の民意は高まり、沖縄県知事と名護市長は、辺野古移設に反対する立場へと変わってしまいました。

政府と沖縄県は法廷闘争へ

安倍政権は辺野古移設計画を進めるため、辺野古の海の埋め立てを沖縄県に申請。2013年12月、仲井真知事(当時)が埋め立てを承認しました。
しかし、2014年11月の沖縄県知事選挙で、辺野古移設に反対する翁長雄志氏が当選。
翁長知事は2015年10月、仲井真知事による辺野古の埋め立て承認には瑕疵(欠点、欠陥)があったとして、取り消しました。
政府と沖縄県の対立は法廷闘争へと発展。途中、裁判所の和解勧告を受け入れて双方が協議を行う局面もありましたが、その後も法的に争う状況が続きました。

翁長知事、埋め立て承認「撤回」を表明後、死去

2018年7月、翁長知事は、仲井真知事による埋め立て承認を「撤回」する考えを表明。その後、8月8日に亡くなりました。翁長知事は4月にすい臓がんの手術を受け、治療を続けていたところでした。
8月31日、沖縄県は埋め立て承認を「撤回」しました。撤回の理由について謝花副知事は、埋め立ての承認後に新たに軟弱な地盤が見つかったことや、沖縄防衛局が策定したサンゴやジュゴンなどの環境保全対策に問題があることなどを挙げました。
これにより政府が進めていた辺野古の埋め立て工事は止まりました。

賛否両論

辺野古移設への反対意見

  • 反対の民意を受け止めるべき
  • 移設計画を白紙から見直しアメリカと交渉すべき
  • 地元の理解なしでは基地の運用に支障をきたす
  • 軍事的必然性よりも政治的都合ではないか
  • 県内移設では沖縄の負担軽減といえない
  • ジュゴンやサンゴなど近海の生態系に影響するおそれ
  • 国と沖縄県が法的に争えば両者の溝は深くなる

辺野古移設への賛成意見

  • 地元には容認の意見もある
  • 辺野古移設よりも優れた代替案がない
  • 安保政策は政府が判断し責任を持つもの
  • 沖縄への再配置が米軍の抑止力維持に必要
  • 過疎地への移設で沖縄の基地負担は軽減する
  • 移設が難航すれば普天間の危険性が固定化される
  • 政府は沖縄県に法的措置で対応すべきだ

新聞各社の主張(辺野古移設への賛否)

朝日新聞反対

朝日新聞は2018年10月1日の社説『沖縄知事選 辺野古ノーの民意聞け』の中で、辺野古移設に反対してきた翁長前知事の遺志を継ぐ玉城氏を有権者は選んだと指摘し、

安倍政権は県民の思いを受けとめ、「辺野古が唯一の解決策」という硬直した姿勢を、今度こそ改めなければならない

と主張しています。沖縄県が辺野古埋め立て承認を撤回したことに対して、政府が法的に争うことを検討していることについては、

政府は裁判に持ち込んで再開させる構えを見せている。しかしそんなことをすれば、県民との間にある溝はさらに深くなるばかりだ

「沖縄に寄り添う」と言いながら、力ずくで民意を抑え込むやり方が、いかに反発を招いているか。深刻な反省が必要だ

と政府の姿勢を批判しています。
また、政府与党が支援した佐喜真氏も玉城氏も共に、在日米軍に様々な特権を認めている「日米地位協定」の改定を公約の柱にすえたことを紹介し、

過重な基地負担に苦しむ県民の、立場を超えた願いと見るべきだ。政府もまさか「佐喜真氏の独自の考えで、我々とは関係ない」とは言うまい。実現に向けた真摯な努力を求める

と述べ、政府に対し日米地位協定の見直しを求めています。

毎日新聞反対

毎日新聞は2018年10月1日の社説『沖縄知事に玉城デニー氏 再び「辺野古ノー」の重さ』の中で、安倍政権が「県外から国会議員や地方議員、秘書団まで動員する政権丸抱えの選挙戦を展開した」と前置きした上で、

それでも玉城氏が勝利したことで、政権が従来の姿勢を見直さざるを得なくなったのは明らかだ

と訴えています。沖縄の基地問題について、

問題の核心は、日米安保のメリットは日本全土が受けているのに基地負担は沖縄に集中するという、その極端な不均衡にある

外交・安保は政府の専権事項だからといって、圧倒的な多数派の本土側が少数派の沖縄に不利益を押しつけるのを民主主義とは言わない

との見方を示しています。
また、2018年10月10日の社説『「辺野古」への政府対応 もう押しつけは通じない』の中では、

外交・安全保障政策は確かに政府が責任を負う。日米安保条約に基づく履行義務もある。
一方で憲法は地方自治を定める。どこに基地を置くかまで地域の理解を得ずに政府が勝手に決めてよいことにはならない。そのような押しつけは国と地方を対等な関係とうたう地方自治法の精神にも反する

と指摘しています。その上で、

翁長氏の訴えた「沖縄の自己決定権」を踏みにじるかのような政府の対応が反発を買い、沖縄知事選で史上最多の39万票という玉城氏の得票につながったと考えるべきだ。そうした反省に基づき、県側が方針決定に関与できる形で真摯な協議を行うほかに打開策はない

として、政府と県の「真摯な協議」を促しています。
さらに、

知事選では政権として全面支援した佐喜真淳(さきまあつし)氏が日米地位協定の改定を強く訴えた。公明党も協定見直しを政府に申し入れている。これは米軍に絡む事件・事故に苦しんできた沖縄が長年求めていることである。知事選で負けたからといって検討しないのは不誠実だ

と述べ、政府に対し、日米地位協定の見直しを求めています。

日経新聞条件つき賛成

日経新聞は2018年10月3日の社説『対話なき辺野古移設は難しい』の中で、

かつて自民党に属していた翁長前知事は、日米安保体制にも在日米軍の駐留にも賛成していた。掲げていたのは「沖縄の過重な負担の解消」だった。にもかかわらず、安倍政権は翁長氏を反米主義者のように扱い、対決姿勢で臨んだ。振興予算を削るなど“兵糧攻め”のようなこともした。こうしたやり方が結果として、翁長路線を引き継いだ玉城氏に追い風となった

と政府与党側の敗因を分析して、これまでの対応を批判しています。
その上で、辺野古への移設そのものについては

日米両政府が普天間基地の返還で合意して22年になる。いまさら白紙に戻して、改めて移設先を探すのは現実的ではない

と指摘。その一方で、地元住民の協力なしには米軍基地の円滑な運用は難しいとして、

このふたつを両立させるには、国が今後、沖縄の基地負担を劇的に改善すると確約し、途中経過として辺野古移設だけはお願いしたいというしかない

と主張しています。そのためには、

佐喜真淳氏を擁立した自民党はバラ色の公約をばらまいた。学校の給食費の無償化もそうだし、米軍に有利とされる日米地位協定の改定を佐喜真陣営が要望したときも否定しなかった。それらを玉城県政でも進めればよい。安倍政権が姿勢を改めたとわかれば、県民の世論も変化しよう。辺野古沿岸の埋め立て許可を巡る裁判が近く始まる。「法的に勝てば埋め立て開始」よりも、「まず対話」が解決につながる

として、政府が検討している法的対抗措置よりも、沖縄県との対話を優先すべきだと訴えています。

読売新聞賛成

読売新聞は2018年10月1日の社説『沖縄新知事 普天間の危険性除去を進めよ』の中で、今回の選挙結果について

敗北は安倍政権にとって痛手である

と指摘する一方で、辺野古への移設計画については、

政府は、計画の前進に向けて、県と真摯な姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない

と述べ、県との協議は促すものの、計画の見直しは求めていません。
また、勝利した玉城氏に対して、

基地問題を巡って国と争いを続けることに、県民の間にも一定の批判があることを玉城氏は自覚しなければならない

辺野古への移設は、普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢である。日本の厳しい安全保障環境を踏まえれば、米軍の抑止力は不可欠だ。基地負担を減らすとともに、住民を巻き込んだ事故が起きないようにする。そのために、どうすべきなのか、玉城氏には冷静に判断してもらいたい

などとけん制。辺野古移設が「唯一の現実的な選択肢」との従来の立場を改めて示しています。また、

玉城氏を推した野党は、辺野古への移設計画について、「違う解決策を模索する」と反対する。具体的な案を示さずに普天間返還を実現するという主張は、かつての民主党の鳩山政権と同じで、無責任のそしりを免れない

と、具体案なしに辺野古移設に反対する野党を厳しく批判しています。その上で、

知事の立場は、野党議員とは異なる。沖縄の発展に重い責任を負うからには、県民所得の向上や正規雇用の拡大に向けて、総合的に施策を推進する必要がある。政府との緊密な連携が欠かせない

と指摘しています。

産経新聞賛成

産経新聞は2018年10月1日の社説『沖縄知事に玉城氏 国と県の関係正常化図れ』の中で、普天間基地の辺野古への移設について、

宜野湾市の市街地に囲まれた普天間の危険性を取り除く上で移設は待ったなしの課題である。同時に在沖縄の米海兵隊は、北朝鮮や中国などを見据えた日米同盟の抑止力の要である。抑止力の維持と基地の安全性の確保を両立させるには、辺野古移設が唯一現実的な解決策だ

との従来の立場を改めて強調しています。また、

米軍基地を国内のどこに置くかという判断は、国の専権事項である安全保障政策に属する。憲法は地方自治体の長に、安保政策や外交上の約束を覆す権限を与えていない。この民主主義の基本を玉城氏は理解してほしい。知事選に基地移設の是非を決める役割があると考えること自体が誤っている

と指摘。選挙戦に勝利した玉城氏に対して、

辺野古移設をめぐり、国と県の対立を再燃させるのは望ましくない。移設を妨げる県の従来方針を改め、国との関係を正常化し、基地負担の軽減を進めていく現実的な立場をとってもらいたい

玉城氏は「基地を造ったら平和にならない」と語ったが、抑止力を否定する発想は非現実的で安保環境をかえって悪化させる。中国が狙う尖閣諸島は沖縄の島である。防衛の最前線である沖縄の知事である自覚をもってほしい

などとして、辺野古移設に反対する方針を改めるよう求めています。
その上で、玉城氏が沖縄県による辺野古埋め立ての承認「撤回」を取り消さない場合は、

国は裁判所に撤回の執行停止を申し立てるべきである。認められれば、埋め立て工事を再開できる

として、政府は沖縄県に対して法的に対抗すべきと主張しています。