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安倍首相、東京五輪にむけて「サマータイム」検討の考え
「サマータイム」とは、日照時間が長い夏の一定期間、時刻を1〜2時間ほど早める制度です。
2018年8月7日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長は、暑さ対策の一環として「サマータイム」の導入を検討するよう安倍首相に求めました。
これに対し安倍首相は「内閣としても考えるが、まずは党のほうで先行して議論してもらいたい」と述べ、自民党内で議論を進める考えを示しました。
ただ、サマータイムをめぐっては、2020年の東京五輪まで準備期間が短いことや、国民生活や企業活動にも影響を与えるなどの問題点が与野党や政府内からも指摘されています。
これまでの経緯
GHQが導入するも4年で廃止
終戦後、GHQの指示で日本でもサマータイムが1948年に導入されましたが、労働界の反発も背景に1951年に廃止となりました。その後、橋本内閣や超党派の議員連盟などがサマータイム導入を目指しましたが、実現には至りませんでした。
賛否両論
デメリット・反対意見
- 生活リズムが崩れることで健康被害の懸念
- システム改修の負担が重く東京五輪に間に合わない
- マラソンのスタート時刻を早めれば済む
- ヨーロッパでは制度廃止の機運が高まっている
メリット・賛成意見
- 省エネや温暖化ガス削減が期待できる
- 夏の明るい時間帯の消費拡大が期待できる
- 東京五輪マラソンの暑さ対策に有効
- 東京五輪の「レガシー」になる
新聞各社の主張(自民党案への賛否)
朝日新聞反対
朝日新聞は2018年8月12日の社説「サマータイム あまりに乱暴な提案だ」の中で、
五輪を掲げれば、無理な話も通ると思っているのだろうか
組織委は、低炭素社会づくりに向けた五輪のレガシー(遺産)にするという。聞こえはいいが、手段が目的に合うのか、コストや副作用はどれほどなのか、筋道だった説明はない。
東京五輪での暑さ対策が狙いなら、競技の時間を変えればいい話だ。あまりにずさんな提案に、驚くしかない
などと厳しい表現で、反対姿勢を鮮明にしています。
その理由として、サマータイム導入に伴うシステム改修の負担や健康被害への懸念、省エネ効果への疑問などを列挙。
東京五輪に関しては、すでに費用が当初の想定を上回り、祝日の移動も決定された。組織委は、ボランティアの確保や交通混雑の抑制なども課題にあげている。
大会を混乱なく運営するための工夫は必要だろう。しかし、号令一下で人々を動かそうとするかのような発想は、あってはならない。「錦の御旗」を振り回して日常生活への影響を当然視する姿勢に陥れば、「レガシー」にも傷がつく
と主張しています。
毎日新聞慎重
毎日新聞は2018年8月10日の社説「サマータイム議論 「五輪のため」は短兵急だ」の中で、
確かに、涼しい時間を活用できれば電力を節約でき、省エネ効果が見込める。日没までの余暇時間が増えれば消費拡大が期待できる
と利点を挙げつつ、これまでに実現していないことを紹介した上で、
実現に至らなかったのは難点が立ちはだかっているからだ。日常生活やビジネスへの影響の大きさだ。
コンピューターのシステム対応や航空・鉄道ダイヤの変更という課題がある。一日の活動時間が長くなるため、労働強化につながることも懸念されている。
これらに解決のめどが立たないまま、暑さ対策を前面に出し、前向きに進めようというのは、目的と手段がアンバランスではないか
と、疑問を呈しています。
また、東京五輪の暑さ対策がきっかけになっていることについては、
夏時間制度は国民生活に大きく影響する施策だ。五輪・パラリンピックだけの問題ではない。にもかかわらず、「スポーツの祭典」を錦の御旗に、2年足らずのうちに実行しようというのは、短兵急に過ぎないか。
森会長は「(制度が)続けば五輪のレガシー(遺産)になる」と話している。永続的なものにと考えるなら、なおのこと慎重さが必要だ
と指摘し、サマータイムの導入に対しては慎重なスタンスです。
日経新聞慎重
日経新聞は2018年8月23日の社説「サマータイムの拙速な導入は避けよう 」の中で、
法案が成立した場合、準備期間は半年程度しかない。まず懸念されるのはコンピューターシステムの対応だ。深夜時間帯の自動データ処理など、見えない「時計」で動くシステムは多い。皆が手作業でパソコンの時刻設定を変えればよい、といった話ではない
全競技を夏時間で開くとなると、夕方開催の競技は逆に予定より暑い中で開くことになりかねない。日本全体の時間を変えるより、一つ一つの競技の開始時間を見直す方が着実ではないか
として、東京五輪の暑さ対策としてのサマータイム導入に疑問を呈しています。その上で、
日本に夏時間を導入するかどうかについては、時間をかけて得失を検討したい
と主張。
生活時間の変更による健康面のリスクも指摘されている。照明の省エネ効果も発光ダイオード(LED)機器の普及で薄れ、冷房用電力の需要は夏時間でもあまり減らないとの試算もある。外出の増加による小売業の売り上げ増加も、ネット通販の普及でかつてほど期待はできないらしい。
まだ日が高い中で「終業時刻だから」と帰るには企業風土の変革も要るだろう。国民生活やビジネスに広く影響する夏時間の導入には、データや実例に基づく多面的できめ細かい議論が必要になる
と指摘し、「拙速な導入は避け、コストと効果をきちんと見極めたい」と、制度導入には慎重な立場です。
読売新聞慎重
読売新聞は2018年8月19日の社説「サマータイム 効果と弊害の慎重な見極めを」の中で、
自民党内では、五輪に間に合わせるため、19年から試験実施する案も出ているが、拙速ではないだろうか。五輪対策であれば、競技時間の変更で事は足りよう。
夏時間の意義だけでなく、不都合な点も含めて、国民的な議論を深めてもらいたい
と慎重なスタンスです。
サマータイムの導入による経済効果や省エネ効果などの利点を紹介した上で、日本で導入されていないのは問題点が指摘されてきたためだと指摘。
時間のズレを補正するため、企業は大規模なシステム改修を迫られる。鉄道や航空など交通機関ではダイヤ変更に手間がかかる
一般の企業にも、明るいうちは仕事を続けようという意識が抜けず、結果的に残業が増えることを心配する声がある。「働き方改革」に逆行しないだろうか
そもそも夏時間は、夏の日照時間が極めて長い高緯度の国に適した制度だ。ほぼ中緯度に位置する日本で、どれほどのメリットがあるのか不透明とされる
夏時間を長年採用してきた欧州でさえ、見直しの機運が出ている。欧州連合(EU)は「体内時計が狂って体調を崩す恐れがある」など、睡眠や健康への悪影響を理由に存廃の検討を始めた。こうした海外の動向も参考にしたい
などと課題を列挙し「効果と弊害を慎重に見極めることが重要だ」と主張しています。
産経新聞慎重
産経新聞は2018年8月9日の社説「サマータイム 混乱回避が導入の条件だ」の中で、
外が明るい時間に仕事が終われば、家族らと過ごす時間が増え、個人消費の活性化につながるとの期待もある。
だが、国民生活に大きな影響を与える制度だけに十分な吟味が欠かせない。とくに金融などコンピューターシステムの変更は大きな課題である。果たして五輪までの2年という限られた時間で万全の準備ができるのか
と疑問を呈し、
始業時間を早めても終業時間が今と変わらなければ、労働時間が長くなる恐れもある。国民の理解と混乱の回避を導入の条件としなければならない
と主張しています。
また、サマータイムの利点とされる省エネや温暖化防止効果についても、
緯度の関係から日本は欧米よりも夏季の日照時間が短い。大きな省エネ効果は見込めないのではないか
と指摘。五輪の暑さ対策という観点についても、
サマータイムよりも競技自体の開始時間を前倒しする対策などとの比較も欠かせない
と注文をつけています。
サマータイムは過去に何度も浮上しては消えていった。五輪に向けて導入しても混乱が生じては元も子もない。拙速は厳に慎むべきである
として、サマータイム導入には慎重なスタンスです。
オピニオンリーダーの声
ツイッター上でも、サマータイム導入に対しては与野党問わず反対意見が圧倒的です。
何度も申し上げていますが、サマータイムによって生じる多くのシステム改修に投じるお金、時間、人の余裕は日本にはありません。必要なところに集中しましょう。 https://t.co/9Jx8jJQ7hX
— 小林史明(総務大臣政務官)人生100年時代の国家戦略 発売中 (@kb2474) 2018年9月13日
サマータイム導入是非。EU内でも国によって意見にばらつきがあるが、当初の目的とした夜間エネルギー消費の抑制効果が乏しいこと、健康面への悪影響があるとする調査結果が複数の研究機関から出されたことは重い。目的がオリンピックの暑さ対策だけで導入とは場当たり的すぎる https://t.co/V8sltpCeAP
— 蓮舫・立憲民主党 (@renho_sha) 2018年9月12日
「サマータイム導入の目は消えた」と言えるのかを説明しておくと、法案提出の次の提出機会は1月下旬からの通常国会。提出したとしても国会では予算審議が最優先で、反対も多い法案の審議は4月まで棚上げ確実。その時点でシステム対応などは完全に不可能。まさか東京五輪の年にぶっつけ本番はないはず。 https://t.co/yTCBFyTuFF
— 木村岳史(東葛人) (@toukatsujin) 2018年9月12日
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