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「日米原子力協定」が自動延長

「日米原子力協定」が7月16日に30年の満期を迎え、自動延長されました。今後は、日米どちらかが一方的に通告すれば半年後に効力を失うことになります。
日本はこの協定を根拠に、核不拡散条約(NPT)の下で非核保有国には許されていない原発の使用済み核燃料の再処理を例外的に認められ、核燃料サイクル政策を推進しています。
しかし、核燃料サイクルの柱だった高速増殖炉「もんじゅ」は廃炉が決まり、再処理で得られるプルトニウムを原発で消費する「プルサーマル発電」もなかなか進んでいません。こうした中、日本は国内外に原爆6000発分にあたるとされる約47トンのプルトニウムを抱えていて、核不拡散の観点から懸念の声も上がっています。

これまでの経緯

「核燃料サイクル」「プルサーマル発電」とは

ウラン燃料を原発で燃焼して発生する「使用済み核燃料」を「再処理」すると、プルトニウムを取り出すことができます。このプルトニウムとウラン燃料を混ぜた「MOX燃料」を、再び原発の燃料として利用する循環が「核燃料サイクル」です。
「高速増殖炉」は、消費した以上のプルトニウムを生み出すことができるため「夢の原子炉」とも称され、資源に乏しい日本にとってエネルギー問題の切り札と期待されてきました。しかし、福井県敦賀市の「高速増殖炉もんじゅ」は事故やトラブルが相次ぎ、運転できない状態が続いてきました。
プルトニウムは核兵器に転用可能なため、プルトニウムの保有は核不拡散の観点から問題視されます。そこで、MOX燃料を通常の原発で使用する「プルサーマル発電」が浮上しました。「プルサーマル」という名称は、「”プル”トニウム」を含むMOX燃料を、「”サーマル”リアクター(軽水炉、一般的な原発)」で使うことに由来します。
ただ、MOX燃料は再処理コストがかかるため、プルサーマル発電は経済性に乏しいうえ、ウラン燃料よりも制御が難しいというデメリットもあります。やはり核燃料サイクル計画の中心は高速増殖炉サイクルです。

「原発ゼロ」戦略でも核燃料サイクル政策は継続

2012年9月に民主党政権が「2030年代の原発稼働ゼロ」を打ち出したエネルギー戦略でも、核燃料サイクル政策については継続する、とされました。
青森県・六ヶ所村の再処理工場には、日本各地の原発でうまれた使用済み核燃料が運び込まれてきました。青森県は核燃料サイクル政策への協力を前提に受け入れていて、もし再処理事業が中止となれば電力会社に使用済み燃料の引き取りを求める姿勢です。そうなれば、各地の原発に使用済み核燃料を保管する余裕はほとんどないため使用済み核燃料が行き場を失ってしまいます。
原発ゼロを目指した民主党政権でも核燃料サイクル政策からの撤退を打ち出せなかった背景には、こうした青森県との関係や、原子力協定を結んでいるアメリカとの関係があるためだと指摘されています。
その後、政権交代で誕生した安倍政権は、2014年4月に閣議決定したエネルギー基本計画において、核燃料サイクル政策の推進を明記しています。

高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決定

高速増殖炉の開発は、実験炉→原型炉→実証炉→商用炉と段階的に進みます。福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」は「原型炉」にあたり、開発段階のものです。1985年に着工しましたが、トラブルや不祥事が続いてきました。
2016年12月、政府は「もんじゅ」の廃炉を決めました。今後は、フランスの実証炉「アストリッド」開発計画に参加することで核燃料サイクルの技術開発を続けることとしました。
しかし、フランス政府は2018年6月、「アストリッド」計画の規模を大幅に縮小します。縮小後の出力は、当初予定していた出力の3分の1以下となり「もんじゅ」を下回ります。日本はこの計画から投資に見合う成果を得られるのか疑問符がついた形で、核燃料サイクル政策の展望はいっそう不透明さを増しています。

賛否両論(核燃料サイクル政策への賛否)

反対派の主張

  • トラブル続きで実現せず実質的に破たんしている
  • ウランは安定確保できる状況
  • 使うあてのないプルトニウムをため込めば核拡散の観点から問題
  • 巨額のコストがかかり経済性がない

賛成派の主張

  • 資源小国である日本にとって、エネルギー安全保障上重要
  • ウラン資源の有効利用
  • 再処理事業は日本が認められた特別な権利
  • 撤退すれば使用済み燃料の行き場がない

新聞各社の主張(核燃料サイクル政策への賛否)

朝日新聞反対

朝日新聞は7月15日の社説「核燃料サイクル政策 破綻を認め撤退すべきだ」で、

いまやプルトニウム利用の合理性は失われている。政府は核燃料サイクルの破綻を認め、撤退を決断するべきだ

と主張しています。その理由として真っ先に挙げているのは、日本が大量のプルトニウムを保有していることに対する国際社会の厳しい目です。日本政府もプルトニウムの削減を掲げているものの、説得力がある計画を示していないと批判しています。また、

そもそも現在、ウランの供給は安定しており、再生可能エネルギーも広がりつつある。コストの面でもエネルギー安全保障の面でも、わざわざプルトニウムを使う理由はない

と指摘。

いま政策の転換を決断せずに青森県六ケ所村の再処理工場とMOX燃料加工工場を稼働させれば、40年間の操業や設備投資などに12兆円近くかかる。破綻した政策の延命に巨費を注ぎ、電気料金の形で消費者に負担させ続けるのは理不尽である

として、政府の責任で核燃料サイクル政策から撤退すべきだと訴えています。

毎日新聞やや反対

毎日新聞は、2018年1月17日の社説「日米原子力協定の延長 再処理策を見直す契機に」でこの問題を取り上げています。
日米原子力協定の自動延長が確実となったことを説明した上で、

従来の原発政策を維持したい日本政府にとって短期的には望ましいかもしれない。しかし、日本の再処理政策の矛盾はエネルギー政策と核の拡散防止の両面で深まるばかりだ。しかも、延長後は日米いずれかが通告すれば半年後に協定が終了するという不安定な状況も生まれる。日本は協定を漫然と延長するのではなく、これを契機に、再処理政策の変更に向けかじを切るべきだ

と主張しています。問題視しているのは、やはり日本のプルトニウムの大量保有です。

核兵器に転用できるプルトニウムを消費するあてのないまま大量に持つことは、核の拡散防止の観点から問題が大きい。中国や韓国との間に緊張をもたらし、米国から懸念の声が上がるのは当然のことだろう。核テロの標的となるリスクも否定できない

と指摘。

サイクル政策からの撤退を改めて検討することが重要ではないか

と訴えています。
また、2018年6月24日の社説「仏アストリッドの計画縮小 「見果てぬ夢」浮き彫りに」では、フランスの実証炉「アストリッド」計画が大幅に縮小されたのに際して、

サイクル政策そのものからの撤退へかじを切る好機とした方がいい

と指摘。核燃料サイクル政策の「路線変更が必要だ」と主張しています。
毎日新聞はこのように核燃料サイクル政策に否定的なスタンスですが、朝日新聞のように「撤退すべき」と断言まではしていません。

日経新聞やや賛成

日経新聞は7月19日の社説「プルトニウム削減を透明性高めて着実に」で、

エネルギー自給率が先進国では最低水準の日本にとって核燃料サイクル政策は重要な選択肢であり、いま放棄することはできない。その前提になる日米協定が延長されたことは歓迎すべきだ

として、核燃料サイクル政策を「いま放棄することはできない」との表現で、当面は賛成の立場を明らかにしています。その上で、

既存の原発でプルトニウムを燃やすプルサーマルを着実に進める必要がある

と主張。

これから再稼働する原発で導入できるよう、政府が前に出て地元の理解を得るべきだ。原発を再稼働済みの電力会社が未稼働の電力会社のプルトニウムを引き受けるなど、各社間の協力も要る

と指摘しています。

読売新聞賛成

読売新聞は2018年1月23日の社説「日米原子力協定 核燃サイクルの実現が大切だ」の中で、

原子力発電所の使用済み核燃料から回収したプルトニウムを燃料に用いる。エネルギー資源に乏しい日本にとって、核燃料サイクルは重要だ

としていて、核燃料サイクル政策を支持する立場です。7月17日の社説「日米原子力協定 プルトニウムの活用を着実に」では、日米原子力協定について

協定により、日本は核兵器の非保有国でありながら、核開発につながり得るプルトニウムの利用を例外的に認められている。エネルギー資源に乏しい日本にとって、電力の安定供給に資する重要な協定だ。緊張感を持って平和利用に取り組む必要がある

と指摘しています。日本が大量のプルトニウムを保有していることが核不拡散の観点から問題視されていることについては、

まずは、既存の保有プルトニウムの消費を加速させるべきだ。再稼働で先行した原発が、他の原発で利用が予定されていた分をも使う方策が有効だろう。電力会社同士が協力して効率的に消費を図りたい。無論、再稼働の加速は欠かせまい

と主張。プルトニウムを原発で使用するプルサーマル発電を推進すべきだと訴えています。

産経新聞賛成

産経新聞は7月20日の社説「日米原子力協定 プルサーマル発電が要だ」で、

エネルギー資源を欠く日本は、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う「プルサーマル発電」を柱とする核燃料サイクルの確立を目指している。日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要な協定である

として、核燃料サイクル政策を支持する立場です。
原発でプルトニウムを燃やすプルサーマル発電については、

そもそも一般の原発でも運転中にプルトニウムが生じて燃えている。プルサーマル発電にも技術上の問題はない。政府は人々の心配を取り除く説明に努め、拡大を図るべきだ。プルトニウムの消費増大に貢献する大間原発(青森県)の早期完成も望まれる

として、プルサーマルの推進を主張しています。
また、日本が大量のプルトニウムを保有していることが核不拡散の観点から懸念されていることについては、

国際原子力機関(IAEA)は日本に厳格な査察をしている。また、成分が異なる発電用プルトニウムでの核武装があり得ないのは、世界の専門家の常識だ

と指摘しています。

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