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森友学園めぐる問題、財務省が調査報告書を公表。20人を処分

2018年6月4日、森友学園に対する国有地売却をめぐり、財務省が決裁文書を改ざんしたり交渉記録を廃棄した問題について、財務省は調査報告書を公表しました
報告書では一連の問題行為について、「財務大臣及び事務次官等に一切報告されぬまま、本省理財局において、国有財産行政の責任者であった理財局長が方向性を決定づけたものであり、その下で、総務課長が関係者に方針を伝達するなど中核的役割を担い、国有財産企画課長及び国有財産審理室長が深く関与していたものである」と結論づけました。動機については、「国会審議において森友学園案件が大きく取り上げられる中で、更なる質問につながり得る材料を極力少なくすることが、主たる目的であった」と認定しました。
その上で、改ざんが行われた当時に財務省理財局長だった佐川氏について、「応接録の廃棄や決裁文書の改ざんの方向性を決定付けた」「問題行為の全般について責任を免れるものではない」として、停職3か月の懲戒処分に相当するとし、退職金から513万円を減額することとしました。
また、佐川氏の部下だった中村総務課長について、一連の問題行為について「中核的な役割を担っていた」として、停職1か月の懲戒処分としました。この他、近畿財務局長や当時の事務次官などを含め、総勢20人が処分の対象となりました。
麻生財務大臣は記者会見で、「行政文書を改ざんし国会に提出することはあってはならないことで、はなはだ遺憾だ。交渉記録について極めて不適切な取り扱いがなされ、改めて深くおわびを申し上げる」などと謝罪した上で、閣僚給与1年分170万円を自主的に返納することを明らかにしました。
一方で、「財務省として今回の事態を真摯に反省し二度とこうしたことが起こらないよう再発防止策を直ちに進める」「私のリーダーシップのもと職員一同が一致団結し信頼回復に努めていく」などと述べ、引責辞任を否定しました。
また、安倍首相は記者団に対し、「麻生大臣には先頭に立って責任を全うしてほしい」と述べ、麻生大臣を続投させる考えを改めて示しました。記者団が「政治責任はどこにあるのか」と質問したのに対しては、「政治責任とは、こうしたことが二度と起こらないよう対策を徹底して講じていくことだろう」と述べました。
これに対し野党側は、麻生大臣の引責辞任や、佐川氏の証人喚問などを求める方針です。

これまでの経緯

森友学園へ国有地売却:8億円の値引きが疑惑の発端

2016年6月、学校法人「森友学園」は大阪府豊中市の国有地を小学校の建設用地として購入しました。この土地の鑑定価格は9億5600万でしたが、地中に埋まっているゴミの撤去費用としておよそ8億2000万円が値引きされ、購入価格は1億3400万円でした。
この大幅な値引きが疑惑の発端となり、売却価格は適正だったのか、政治家の圧力がなかったのかなどが焦点になりました。
特に「森友学園」が運営する幼稚園が安倍首相を賛美する教育を行っていたことや、安倍昭恵夫人が設立予定の小学校の名誉校長を務めていたことなどから、安倍政権との関係が注目されました。
そして2017年2月、安倍首相が国会で「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことで、安倍首相の進退につながる政界の関心事となりました。

籠池理事長、国会で証言。その後、詐欺容疑で逮捕

2017年3月、森友学園の籠池理事長に対する証人喚問が国会で行われました。
籠池氏は「大幅な値引きにびっくりした」「政治的な関与はあったのだろうと認識している」などと述べたほか、昭恵夫人の助けを得ようと留守電にメッセージを残したのに対して昭恵夫人付きの職員からFAXで回答を得たことや、昭恵夫人から森友学園に100万円の寄付があったことなどを証言しました。
これに対して政府は、値引きは適切だったと説明し、夫人付きの職員によるFAXは一般的な内容で籠池氏への「ゼロ回答」であり行政の「忖度」を否定しました。
また、昭恵夫人はフェイスブックにコメントし、学園側に寄付金を渡したことも講演料をもらったこともないとし、夫人付きの職員がFAXで回答した件についても関与を否定しました。
こうした中、森友学園が小学校校舎の建設工事をめぐり、金額の異なる3通の契約書を作成して国の補助金を不正に受給していたことが発覚。籠池理事長夫妻は2017年7月、詐欺容疑で逮捕されました。

会計検査院、値引き「十分な根拠確認できない」

2017年11月、会計検査院は森友学園への国有地売却に関する調査結果を国会に提出しました。
調査結果では、8億2000万円という値引き額の算定方法について「十分な根拠が確認できない」と指摘した上で、地中のゴミの量について、独自に行った複数の推計では3~7割にとどまり「慎重な調査検討を欠いていた」と改善を求めました。
また、資料が保存されていないため「検証が十分に行えない」とし、財務省や国交相に対して文書管理の在り方などについて改善を求めました。一方、政治家からの働きかけや行政の忖度があったかどうかについては触れませんでした。

財務省の決済文書「改ざん」問題が発覚

2018年3月2日、朝日新聞は、国有地売却に関する財務省の決済文書が問題発覚後に書き換えられていた疑いがあると報じます。これをきっかけに、しばらく沈静化していた森友学園をめぐる問題が再び浮上します。
そして、3月9日に佐川氏が国税庁長官を辞任しました。佐川氏は文書改ざん当時の理財局長で、森友学園をめぐる一連の問題をめぐって国会答弁を担当してきました。
佐川氏は国会答弁で、学園側との交渉の記録について「廃棄した」と説明していましたが、2018年2月には近畿財務局内での法律上の相談をした際の内部文書が見つかっていました。
また、学園側との交渉について「価格を提示したこともないし、先方からいくらで買いたいという希望があったこともない」などと答弁してきましたが、その後、学園側との間で事前に金額をめぐるやり取りがあったことが明らかになり、佐川氏の答弁が虚偽だったのではないかと指摘されてきました。野党の追及や厳しい世論を背景に、佐川氏の辞任に発展した形です。

財務省「14件の文書を書き換え」調査結果を発表

2018年3月12日、財務省は、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書をめぐり、2017年2月下旬から4月にかけて、財務省理財局が「売払決議書」や「貸付決議書」など14件の文書が書き換えられていたとする調査結果を国会に報告しました。
学園側との価格交渉をうかがわせる記述や、財務省本省の関与をうかがわせる部分などが削除されていました。
また、2014年4月に行われた近畿財務局と森友学園との打ち合わせの中で、森友学園側から「安倍総理大臣夫人の昭恵氏を現地に案内し『いい土地ですから前に進めてください』との言葉をいただいた」との発言があったとしていましたが、これも削除されていました。
麻生財務大臣は「極めてゆゆしきことで誠に遺憾で、おわび申し上げる」と謝罪する一方、書き換えについては「理財局の一部の職員によって行われた。その最終責任者は当時の理財局の佐川局長だ」と説明しました。書き換えが行われた理由については「佐川前国税庁長官の答弁と決裁文書との間にそごがあった。佐川の答弁に合わせて書き換えたのが事実だ」と述べました。

佐川氏を証人喚問するも真相解明ならず

2018年3月27日、森友学園に対する国有地売却について財務省が決裁文書を改ざんしていた問題をめぐり、改ざんが行われた当時に国有財産を管理する財務省理財局のトップだった佐川氏(前国税庁長官)の証人喚問が、衆・参両院の予算委員会で行われました。
佐川氏は「国会において大きな混乱を招き、行政の信頼を揺るがすような事態になったことは誠に申し訳ないと思っている。当時の担当局長として責任はひとえに私にある。深くおわび申し上げたい」と謝罪しました。
佐川氏は、この問題をめぐって安倍首相や昭恵夫人、麻生財務大臣や首相官邸関係者など政権からの指示はなく、財務省理財局の中で対応したと証言しました。
その一方で、改ざんは誰の指示でなぜ行われたのかなど問題の核心については「自らが捜査の対象で刑事訴追を受けるおそれがあるので答弁を差し控える」などとして証言を拒否しました。けっきょく、佐川氏の証人喚問を通じて真相究明には至りませんでした。

財務省、森友学園との交渉記録を提出

2018年5月23日、財務省は、佐川前理財局長が「廃棄した」と説明してきた森友学園との交渉記録について、職員のパソコンなどに残されていたものが見つかったとして、2013年から2016年にかけて作成された900ページを超える交渉記録を国会に提出しました
財務省は、この問題をめぐる決裁文書が改ざんされていたのと同様に、理財局の職員が、この問題が発覚した2017年2月以降に交渉記録を廃棄するよう指示していたことを明らかにし、謝罪するとともに、交渉記録の廃棄を誰が指示したのかなどを調査し、その結果を報告すると説明しました。
安倍首相は、「残っていないとしていたこれまでの財務省の答弁と事実が異なっていたわけであり誠に遺憾だ」「国会答弁との関係で文書を廃棄することは不適切であり、これについても誠に遺憾だ」などと述べました。
提出された交渉記録の中には、安倍首相の昭恵夫人付きだった谷査恵子氏が2015年11月10日に、「安倍総理夫人の知り合いから優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、当方からお問い合わせさせていただいた」などと、財務省の担当者に問い合わせたことが記されています。
この点について安倍首相は、「制度上の問いをしているわけで、私や妻が国有地払い下げや学校の認可に事務所も含めて一切関わっていないことは明確にしたい」と述べ、改めて関与を否定しました。

大阪地検、森友学園めぐる問題で佐川氏ら38人を不起訴

森友学園に対する国有地売却をめぐる一連も問題をめぐっては、決算文書の改ざんが行われた当時に財務省理財局長だった佐川氏など38人が虚偽公文書作成などの疑いで告発されていました。
2018年5月31日、大阪地検特捜部は、刑事責任を問うのは難しいと判断し、佐川氏をはじめ38人全員を不起訴にしました。
佐川氏の文書改ざんへの関与について、大阪地検特捜部は会見で、「関与がなければ『嫌疑なし』になる。『嫌疑なし』とする証拠はない」とする一方で、「文書の改変によってうその文書を作ったと認めるのは困難と判断した」などと述べ、嫌疑不十分で不起訴としたことを説明しました。改ざんの前後で森友学園側との契約の経緯や金額などに大きな変更はなく、虚偽の内容に変えたとまでは言えないと判断したものとみられます。
また、国有地がごみの撤去費用などとして鑑定価格から約8億円値引きされて売却された問題についても、背任容疑で告発された財務省・近畿財務局・大阪航空局の当時の幹部らを不起訴としました。
大阪地検特捜部は会見で、「売却によって国は相当額の損害賠償義務を免れた可能性を否定できず、ごみの撤去費用の見積もり額が不適正と認めるのは困難」「国に財産上の損害を生じさせたとは認められない」などと説明しました。小学校の開校が遅れた場合、学園側から損害賠償を請求される可能性があったことなどから、8億円の値引きによって国に損害を与えたとは言い切れないと判断したとみられます。

麻生大臣の辞任をめぐる賛否両論

辞任すべき派の主張

  • この問題を軽視してきた麻生大臣のもとでは信頼を回復できない
  • 財務省のトップとして責任を取るべき

辞任「不要」派の主張

  • 一連の問題は理財局長以下が行ったもので麻生大臣は知らなかった
  • 再発防止に取り組むことで責任を果たす

新聞各社の主張(麻生大臣は辞任すべきか)

朝日新聞(2018年6月5日社説辞任すべき

麻生氏は速やかに辞任し、新しい大臣の下で財務省は出直すべきである

毎日新聞(2018年6月5日社説辞任すべき

当然ながら麻生太郎副総理兼財務相の引責辞任が不可欠である

日経新聞(2018年6月5日社説辞任すべき

問題を引き起こした組織のトップは責任を免れない(略)時機をみて決断することを求めたい

読売新聞(2018年6月5日社説続投を容認

麻生氏は財務相にとどまるのなら、先頭に立って組織風土の刷新に取り組まねばならない

産経新聞(2018年6月5日社説続投を容認

麻生氏に続投を頼むなら(安倍首相は)責任を全うするために何を断行すべきか明確な指示を開示してほしい

社説読み比べ

麻生大臣の辞任を求める朝日・毎日・日経の3紙の中でも、朝日・毎日は速やかな辞任を求めています。
朝日新聞は、

責任を官僚組織の一部に押し込め、問題が政権全体に及ぶのを回避しようという狙いは明らかだ(略)これでは、失った信頼を回復するどころか、政治不信に拍車をかけるだけだろう

などと指摘し、麻生大臣の「即刻辞任」を求めています。
毎日新聞も、

これほど重大な不祥事を引き起こしておいて、政治家がだれも責任を取らないということでは、政治道徳の堕落につながる。麻生氏が居座りを決め込むことは国民に対して不誠実であり、政治不信に拍車をかけるだけだ

と辞任を強く促しています。
一方で、日経新聞は、

国会会期中の辞任となれば、対外関係を含め政策の継続性からも混乱を招くおそれがあるのは確かだ

と指摘。その上で、

しかし、問題を引き起こした組織のトップは責任を免れない(略)麻生氏は「政治家の美学」を大切にするという。時機をみて決断することを求めたい

として、対外関係や政策の混乱を避けたタイミングでの辞任を求める立場です。

読売・産経は麻生大臣の辞任までは要めていませんが、読売新聞は、

麻生氏は、改ざんについて「財務省全体で日常的に行われているわけではない」と述べ、組織ぐるみではないとの見解を示した(略)組織ぐるみと言わずして、何と言うのだろうか。麻生氏は認識を改めるべきだ

と指摘。産経新聞も

佐川氏を国税庁長官の要職に据え、「適材適所だ」とかばい続けた任命責任の反省もない。改竄に関与して自ら命を絶った職員について「痛ましく残念な話だ」と述べた麻生氏の言葉はあまりに軽く、情も感じられない

と批判。読売・産経も、麻生大臣の姿勢を厳しく批判しています。

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