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柳瀬元首相秘書官、「加計学園」関係者との面会認める

2018年5月10日、学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題で、衆議院および参議院の予算委員会に柳瀬元首相秘書官が参考人として出席し、質疑が行われました。
柳瀬氏は、2015年4月を含む3回、首相官邸で加計学園の関係者と面会したことを明らかにし、これまで面会を否定してきた愛媛県の職員などがその場に同席していた可能性を認めました。
一方で、この件を安倍首相に報告したり、安倍首相から指示を受けたりしたことはないと述べ、加計学園に対する特別扱いは否定しました。
政府・与党は、安倍首相の関与はなく獣医学部新設のプロセスに不正はないとして、この問題の幕引きを図りたい考えです。
これに対し野党側は、柳瀬氏が学園関係者と官邸で3回面会するなど「加計学園ありき」だった疑惑が深まったとして、柳瀬氏に対する、偽証罪を問うことができる「証人喚問」の実施や、加計学園の理事長、愛媛県の中村知事など関係者を国会に招致することなどを求め、今後もこの問題を追及していく方針です。

これまでの経緯

「加計学園」が愛媛県今治市に獣医学部を設置する事業者に決定

獣医学部の新設を目指す愛媛県と今治市は、2007〜2014年にかけて15回にわたり、国の「構造改革特区」制度に申請してきましたが、却下され続けてきました。
安倍首相は2014年9月、国家戦略特区の諮問会議で、獣医学部新設の解禁を含む規制改革について「早急に検討」と発言します。2015年6月30日には経済成長戦略「日本再興戦略」が閣議決定され、獣医学部の新設を検討することが明記されました。
そして2017年1月、国家戦略特区に指定された今治市は獣医学部の事業者を公募し、唯一応募した「加計学園」が事業者に決まりました。「加計学園」は、安部首相の友人が理事長を務めています。

前文科次官「行政がゆがめられた」

2017年5月17日、朝日新聞は、加計学園の獣医学部設置について「総理の意向」など記された文部科学省の内部文書を報じます。しかし、菅官房長官は記者会見で「怪文書のような文書だ」と否定。この文書を調査した文科省も「該当する文書は確認できなかった」と存在を否定しました。
これに対し、2017年5月25日、文部科学省の前の事務次官だった前川喜平氏が記者会見を開き、この文書は「確実に存在していた。あったものをなかったことにできない」などと述べ、文科省で作成された文書であると証言しました。また、加計学園の獣医学部新設について「極めて薄弱な根拠で規制緩和が行われた。公平・公正であるべき行政の在り方がゆがめられた」と主張しました。
事務次官の経験者が公然と批判したことで、この問題が一気に注目されることになりました。

文科省、文書を発見し謝罪

2017年6月15日、松野文部科学大臣は追加調査の結果を発表しました。
松野大臣は、民進党などが示していた19の資料のうち14の存在が確認できたとして「前回確認できなかった文書の存在が明らかになったことは大変申し訳なく、この結果を真摯に受け止めている」と謝罪しました。
その一方で、「官邸の最高レベルが言っている」と記した文書については、「担当の文科省職員は『こうした趣旨の発言はあったと思うが真意は分からない』と話している」と説明しました。また、行政がゆがめられたかについては、「プロセスや行政の過程がねじ曲げられたとは考えていない」と改めて否定しました。

加計学園めぐる閉会中審査、議論は平行線

2017年7月10日、この問題をめぐり、国会閉会中に審議を行う「閉会中審査」が衆参両院で開かれました。
参考人として出席した前川氏は、「総理大臣官邸の関与があることは明らかに推測される」「私が『ゆがめられた』と思う部分は、規制緩和の結果として加計学園だけに獣医学部の新設が認められたプロセスであり、不公平・不透明な部分があるのではないか」などと主張しました。
これに対して山本地方創生担当大臣は、「一点の曇りもなく、ルールに基づいてやってきた」「個別の案件について官邸などが入る余地はない」などと反論しました。
また、前の愛媛県知事の加戸守行氏は「岩盤規制にドリルで穴をあけてもらい、ゆがめられた行政がただされたというのが正しい」などと、正当性を訴えました。

7月24日に開かれた予算委員会では、安倍首相は、加計理事長から獣医学部新設の話を聞いたことはないと述べ、便宜を図ったことはないと強調しました。
安倍首相はまた、加計学園が獣医学部の新設を申請していることを知ったのは2017年1月20日の国家戦略特区諮問会議でのことだと説明しました。
結局、議論は平行線に終わりました。

加計学園が運営する獣医学部が開学

2017年11月10日、文部科学省の大学設置審議会は、来年4月の開学を認める結論をまとめ、林文部科学大臣に答申しました。野党は一連の疑惑を背景に認可の留保を求めましたが、11月14日、林文科大臣は獣医学部の新設を認可すると発表します。
そして2018年4月、「加計学園」が運営する岡山理科大学の獣医学部が今治市に開学しました。

加計学園めぐるメール、文科省で発見。柳瀬氏との面会予定を記載

2018年4月20日、林文科大臣は、学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐり、2015年4月2日に内閣府から文部科学省あてに送信されたメールが文科省内で見つかったことを明らかにしました。
メールには、愛媛県・今治市・加計学園の関係者が、内閣府の地方創生推進室次長だった経済産業省の藤原審議官と面会した際の様子が記されているほか、「本日15時から柳瀬総理大臣秘書官とも面会するようです」などと記載されています。
愛媛県職員らとの面会について、柳瀬氏は「記憶の限りお会いしたことがない」と否定してきましたが、面会があった可能性が高まりました。

賛否両論

柳瀬氏に対する追及

  • 愛媛県や今治市の職員と面会したことはないのか
  • これまで加計学園関係者との面会を明らかにしなかったのは不誠実
  • 面会の際に「首相案件」と発言したのではないか
  • 面会について、安倍首相に本当に報告したことはないのか
  • 加計学園を特別扱いしたのではないか

柳瀬氏の言い分

  • 加計学園関係者と面会した場に同席していたかもしれない
  • 聞かれた質問に答えてきたが、わかりづらくなり迷惑をかけた
  • 個別のプロジェクトを「首相案件」とは言っていない
  • 加計学園の件で安倍首相に報告したことも指示を受けたこともない
  • 安倍首相と加計理事長の友人関係は認識していたが、特別扱いをしたことはない

新聞各社の主張(抜粋)

朝日新聞(2018年5月11日社説関係者の国会招致が必要

柳瀬氏がこうした態度をとる以上、加計孝太郎理事長ら関係者を国会に呼んで話を聴くしかない

毎日新聞(2018年5月11日社説関係者の国会招致が必要

柳瀬氏の招致を経ても、疑問は解消されないままだ。与野党は愛媛県など自治体や、学園の関係者の国会への招致を急ぐべきだ

日経新聞(2018年5月11日社説他の案件の審議も急げ

疑惑の追及だけに時間を割くわけにはいかず、与野党は並行して重要案件の審議を急ぐべきだ

読売新聞(2018年5月11日社説疑惑の追及だけ重視するな

疑惑の追及のみを重視し、内外の懸案を疎おろそかにしては、本来の国会の役割は果たせない

産経新聞(2018年5月12日社説首相は誤解を解く姿勢も示せ

首相は柳瀬氏の面会などで生じた誤解を解く姿勢も示すべきだ

社説読み比べ

柳瀬氏の参考人招致の翌日に産経を除く4紙が、さらにその翌日に産経がこの問題について社説を掲載しました。柳瀬氏の説明については、

「不自然で、およそ信じることはできない」(朝日)

「にわかに信じがたい説明である」(毎日)

「面会の事実を当初は隠そうとしたと疑われても仕方がない」(日経)

「野党の追及を受ける首相をおもんぱかり、柳瀬氏が事実を隠そうとしたとみなされてもやむを得ない」(読売)

「浮き彫りになったのは、政権中枢で働く高級官僚が、国会で不誠実な受け答えを重ねていた点である」(産経)

などと、そろって厳しく批判しています。
一方で、野党が求めている加計理事長や愛媛県知事の国会招致については、朝日と毎日は必要性を強調したのに対し、日経と読売は、他の重要案件の議論も重要だと指摘しています。
産経は、関係者と会うこと自体は問題がないとして、「首相は柳瀬氏の面会などで生じた誤解を解く姿勢も示すべきだ」と促しています。

※産経が社説で取り上げたことを受けて、12日に加筆修正しました。

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