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黒田総裁の2期目スタート「出口戦略は時期尚早」

2018年4月9日、日銀の黒田総裁の2期目(任期5年)がスタートしました。
2013年3月に就任した黒田総裁は、「2年で2%の物価上昇」を目標に掲げ、大量の国債を購入して市場への資金の供給量を2倍にする「異次元緩和」を始めました。

その後、2016年9月からは、国債の量よりも、金利の水準をコントロールする手法に金融政策の軸足を移しました。大規模な金融緩和は、企業収益の向上や株価の上昇などをもたらしましたが、「2%の物価上昇」の達成は遠く、目標の達成時期をこれまでに6回先送りしてきました。

また、金利が低下したことで国の財政規律が悪化し、金融機関の経営環境も悪化するなど副作用も指摘されています。一方で、アメリカやEUの中央銀行は金融緩和を縮小させる「正常化」に向っています。

こうした中、日銀も金融緩和を縮小させる「出口戦略」を検討すべきと指摘されています。これについて黒田総裁は2018年4月9日の記者会見で「具体的な手順などを語るのは、かえって市場の混乱を招くおそれがある」などと述べ、「出口戦略」について具体的に議論するのは時期尚早だという考えを示しました。

これまでの経緯

アベノミクスの「第1の矢」としてスタート

金融緩和政策は、2012年の衆院選挙において自民党の公約にデフレ脱却の方策として明記されました。安倍政権が発足すると、政府・日銀は2013年1月22日に「共同声明」を発表します。日銀は2%の物価上昇目標を「できるだけ早期に実現する」ための金融緩和を行う、としました。

日銀がそれまで掲げていた物価安定の「めど」としての「1%」が、「2%」の「目標」へと変わりました。日銀総裁が白川方明氏から黒田東彦氏に交代することになぞらえて、「白から黒へ」と表現されるほどの金融政策の大きな転換でした。

2013年4月、安倍政権によって任命された黒田総裁のもとで、大規模な金融緩和がアベノミクスの第1の矢としてスタートしました。

黒田総裁、2%目標へ「マネーを2年で2倍」

2013年4月4日、黒田新総裁は「物価上昇率2%」を2年で達成することを目標に掲げ、日銀が市場に供給するマネー量を2年で2倍にするなどの大規模な金融緩和をうちだしました。

銀行が保有する国債などを日銀が大量に買い入れることで、銀行の手持ち資金を増やし、消費や投資にお金が回りやすくします。

また、目標達成への強い姿勢を示すことで「インフレ期待」を高め、「物価が実際にあがる前に買い物をしよう」といった心理から、消費や投資を促して実際に物価上昇を実現する狙いがあります。

日銀が打ち出した具体策は以下の通りです。

  • 政策指標を、短期資金の貸し借り金利(無担保コールレート)から、日銀による市場への資金供給量(マネタリーベース)に変更
  • マネタリーベースを2年間で2倍に拡大
  • 従来よりも長期の国債も日銀が買い入れる
  • 上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)などの購入を拡大
  • 日銀の国債購入の上限額を定めた「銀行券ルール」を一時凍結

株価上昇の一方で「財政ファイナンス」「悪い物価上昇」の指摘

黒田緩和がスタートすると、円安が進行し、企業収益が拡大し、株価上昇が進みました。一方で、金融緩和策のリスクとして「財政ファイナンス」や「悪い物価上昇」といった問題点が指摘されました。

日銀による国債の購入が「財政ファイナンス」つまり、日銀による政府の借金の穴埋めだとみなされれば、日本政府の財政に対する信用が失われて国債の価格が暴落し、金利の急上昇を招きかねないという指摘です。

また、円安は、輸出企業などを中心に業績向上をもたらす一方で、輸入コストを押し上げるため、企業や家計に悪影響も及ぼします。アベノミクスが狙う、賃金の上昇を伴う好循環としての物価上昇ではなく、コスト増加がもたらす「悪い物価上昇」をもたらすのではないかと指摘されました。

「追加緩和」や「マイナス金利」でも2%目標達成できず

2014年10月、黒田日銀は国債の購入量を年間50兆円から80兆円に増やすなどの「追加緩和」を打ち出しました。主な内容は以下のとおりです。

  • 長期国債の買い増し:年間30兆円増加し、年間80兆円へ
  • ETF(上場投資信託)の買い増し:3倍し、年間3兆円へ
  • J-REIT(不動産投資信託)の買い増し:3倍し、年間900億円へ

その後、2015年12月18日には日銀は金融緩和を「補完するための措置」を発表しました。
従来よりも満期までの期間が長い国債を多く買えるようにしたり、不動産投資信託の買い入れ限度を引き上げることのほか、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETF(上場投資信託)につき新たに3000億円の買い入れ枠を設ける、などの内容です。

さらに、2016年1月29日に「マイナス金利」導入を決定しました。
具体的には、日銀が金融機関から預かっているお金の一部を対象に、金利を「年マイナス0.1%」に引き下げます。金融機関としては、日銀から利息をもらうのではなく、いわば手数料を支払って資金を日銀に預ける形になります。日銀としては、金融機関の資金を積極的に貸し出しなどに振り向けることを促し、設備投資や住宅購入を活性化することで、目標としている物価上昇2%を早期に実現させるのが狙いです。

しかし、当初2年で達成するとした物価上昇率2%目標については達成のメドが立たず、繰り返し先延ばしされました。

金融政策の軸足を「量」から「金利」へと転換

2016年9月、日銀は、国債の量よりも、金利の水準をコントロールする手法に金融政策の軸足を移しました。

年間80兆円の国債購入目標を事実上撤回し、長期金利(10年物国債の流通利回り)を0%程度、短期金利をマイナス0.1%程度に抑える新たな長短金利操作政策を導入しました。

「出口戦略」検討めぐる賛否両論

すぐに検討すべき派の主張

  • 金融緩和が継続すれば、低金利による国の財政規律の悪化・銀行の収益悪化などの副作用が拡大する

時期尚早派の主張

  • 「出口戦略」は、急激な長期金利上昇・株価下落などの市場混乱をもたらす懸念。慎重に進めるべき

新聞各社の主張(抜粋)

朝日新聞 (2018年4月2日社説

緩和の副作用や「出口」のあり方など、国民の不安に丁寧に答える。新執行部に、まずそのことを求める

毎日新聞(2018年3月17日社説

物価上昇率が2%以上で安定、という出口の条件が整うのを待っていては、正常化は手遅れになるだろう。景気が良い今のうちに、「2%」に固執する従来の姿勢を転換すべきだ

日経新聞(2018年3月22日社説

今後5年を展望すれば、金融緩和の出口の道筋をしっかりと議論することも必要になる(略)金融政策の検証を柔軟に進め、必要な修正はためらうべきではない

読売新聞(2018年4月11日社説

日銀は、今は時期尚早だとしても、景気拡大が長期化する中で、金融正常化のタイミングをどう計るかについても検討が要る

産経新聞(2018年3月17日社説

任期中には、日銀の緩和路線をどう手じまいにするのかという「出口」に向けた検討作業を始めることも想定される(略)時機や手法を見誤ることがないよう、柔軟で丁寧な政策運営を求めたい

社説読み比べ

日銀の金融緩和政策をめぐって「出口戦略」に向かうことの重要性については各紙とも共通認識ですが、朝日・毎日は速やかに議論すべきというスタンスです。

これに対し、日経・読売・産経は、2期目5年の任期中に、というスケジュール感覚です。