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概要

自衛隊は憲法違反?

日本国憲法に自衛隊は規定されておらず、9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という条文との関係が議論されてきました。

政府はこれまで「自衛のための必要最小限度の実力組織は『戦力』に当たらない→自衛隊は憲法9条2項における『戦力』ではない→だから自衛隊は憲法違反ではない」と「解釈」してきましたが、憲法学者からも「自衛隊の存在は憲法違反の疑いがある」と指摘されてきました。

そこで自民党は野党時代の2012年4月に「日本国憲法改正草案」を作成します。この草案では、憲法9条2項を改正した上で「国防軍」の存在を憲法に書き加えることとされていました。しかし、憲法改正に向けた具体的な機運は高まりませんでした。

安倍首相の提案「9条を維持したまま自衛隊を憲法に明記」

こうした中、2017年5月に安倍首相が一石を投じます。

安倍首相は「私たちの世代のうちに自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考える」と訴え、「憲法9条1項・2項を残しつつ、自衛隊の存在を明記する」ことを提案したのです。そして「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている」と述べ、憲法改正を目指す時期にまで踏み込みました。

2017年10月の衆議院選挙では、自民党は国政選挙の重点項目として初めて憲法改正を掲げて勝利。憲法改正のための国民投票を実施するには国会議員の3分の2による発議が必要ですが、憲法改正に前向きな勢力は衆参ともに3分の2を超え、憲法改正が現実味を帯びてきました。

自民党内の議論、安倍首相案に沿って取りまとめ

自民党は「憲法改正推進本部」において、安倍首相の提案を軸に議論を進めました。しかし、自民党内には2012年にまとめた憲法改正草案のように「憲法9条2項を削除すべき」との意見も根強く、議論がなかなか収束しません。
こうした中、2018年3月25日の自民党大会(年に1度の最高意思決定機関)の直前に、憲法改正推進本部の細田本部長に対応が一任されました。細田氏は安倍首相案に沿って9条改正案を取りまとめました。
ただし、異論にも配慮し「有力案」という位置付けで、党内意見を最終的に一本化できたわけではありません。

賛否両論

反対派の主張

  • 自衛隊は「合憲」と解釈されており、憲法改正の必要がない
  • 憲法改正より先に取り組むべき課題がある

賛成派の主張

  • 自衛隊が憲法違反の疑いがある状態を解消すべき
  • 隊員の士気を高め抑止力向上に資する

新聞各社の主張(抜粋)

朝日新聞(2018年3月23日社説)

付け焼き刃の改憲論議の前に、立法府の一員としての責務を全うすべきだ

毎日(2018年3月24日社説)

現行憲法の核心である9条をこれほど無造作に扱い、これほど密度の粗い改憲案を提起することに、がくぜんとする

日経(2018年3月25日社説)

党大会を前に、反対論を押しきるかたちの見切り発車

読売(2018年3月24日社説)

複数の9条改正案を示せば、混乱を招き、合意形成の妨げになりかねない。自民党案の一本化は欠かせない

産経(2018年3月25日社説)

理想としては戦力不保持の9条2項を削除し、自衛隊を名実共に世界標準の軍に改めるべき

社説読み比べ

憲法改正に否定的な朝日・毎日は「付け焼刃」「無造作・密度が粗い」などと批判。日経も「見切り発車」と評し、憲法改正に肯定的な読売も「自民党案の一本化は欠かせない」と指摘しました。憲法改正に最も積極的な産経新聞は一連の動きを評価しましたが、「理想」は憲法9条2項の削除であり、あくまでも「第一歩として」評価する、というスタンスです。

憲法改正をめぐる賛否両サイドから批判を受けている自民党の憲法改正議論。森友問題などをめぐり安倍政権の求心力が低下する中、今後も憲法改正をめぐる議論は険しい道のりになりそうです。