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「核の傘」とは

「核の傘」とは、核兵器保有国(例:アメリカ)が、核を持たない同盟国(例:日本)に対する核攻撃を防ぐことを意味し、「拡大抑止」とも表現します。核兵器を持たない日本は、同盟国アメリカの核兵器の抑止力で守られている、ということになります。

「核兵器禁止条約」とは

核兵器禁止条約は、核兵器の開発や保有、使用などを禁止する初めての国際条約で、2017年7月8日に国連の交渉会議で賛成多数で採択されました。条約には多くの国が参加する方針ですが、核兵器を保有する国や「核の傘」に守られる日本などは参加しない見通しです。

朝日新聞「核の傘からの脱却模索が責務」

朝日新聞は「核禁止条約 背を向けず参加模索を」と題した10月25日付の社説で、「核兵器禁止条約」に日本政府が不参加を表明していることについて、

核兵器禁止条約は、非人道性という原点に立ち返り、核抑止論を否定しようとしている。「核兵器のない世界」の実現に向けた着実な一歩であることは確かだ。この流れになぜ被爆国があらがうのか

と批判。その背景について

米国の「核の傘」に頼る安全保障政策が、最大のネックになっている

と指摘しています。そして、

「核には核を」の悪循環は、偶発的に核が使われる危険性を高めるばかりだ。すぐには困難だとしても、核の傘からの脱却と、条約参加への道筋を真剣に模索するのが、被爆国としての日本の責務だろう

として、「すぐには困難だとしても」という留保をつけつつも、アメリカの「核の傘」からの脱却を模索すべきと訴え、「核兵器禁止条約」への参加を促しています。

以下では、「核の傘」や「核兵器禁止条約」をめぐる新聞各社の主張を見ていきます。

毎日新聞「条約への不参加が残念」

「核兵器禁止条約」をめぐっては

私たちは禁止条約が唯一無二の道だとは思わない。だが、同条約に反発する核保有国に問いたい。NPTが定める核軍縮の責務を果たしてきたか。核軍縮が遅々として進まないから非保有国は禁止条約の採択に動いた。問われるべきは核保有国の怠慢と、危機意識の欠如である(20170806社説)

日本政府は、韓国や豪州、欧州諸国とともに核兵器禁止条約の交渉に参加しなかった。米国の同盟国であり、自国の安全保障を米国の「核の傘」に依存している現実と矛盾するという理由からだ(中略)日本の核兵器禁止条約への不参加が残念でならない(20171007社説)

などとして、核保有国の「怠慢」を批判するとともに、日本が条約に参加しないことを「残念」としています。一方で、

現状での核抑止力は否定せず、核廃絶へ全力を挙げるのが現実的で誠実な態度ではなかろうか(20170806社説)

として、現状での核抑止力、つまり「核の傘」で守られている当面の状態は受け入れつつも、核兵器の廃絶へ全力を挙げるよう訴えています。

このように朝日・毎日が核兵器禁止条約を肯定的にとらえているのに対して、読売新聞や産経新聞は真逆の主張です。

読売新聞「核の傘に頼らざるを得ない」

「核兵器禁止条約」をめぐっては、

現状を無視した条約の制定は、むしろ核廃絶を遠のかせるのではないか(中略)問題なのは、核兵器や「核の傘」を必要とする国の安保環境を、条約が考慮していない点である(20170712社説)

北朝鮮は昨年、2回も核実験を行った。ミサイル実験も繰り返し、7月には大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を2回強行した。こうした核の脅威がある以上、日本は、同盟国である米国の「核の傘」に頼らざるを得ない。核抑止の考え方自体を否定する条約に加入するのは無理がある(20170806社説)

として、核抑止を否定する核兵器禁止条約に加入するのは無理だと指摘。日本は「核の傘」に頼らざるをえないと訴えています。そして核兵器廃絶に向けては、

核保有国が自らの責務として緊張を緩和し、段階的な核軍縮を議論できる環境を整えることが先決だろう(20170712社説)

核拡散防止条約(NPT)を順守しつつ、核軍縮や核不拡散を国際社会に粘り強く働きかけるのが日本の目指すべき道だろう(20170806社説)

と主張しています。

産経新聞「核の傘の重要性は増している」

「核兵器禁止条約」をめぐっては

核兵器廃絶という理念は理解するとしても、核の脅威が増している現実を、理念ゆえに見失っては、本末転倒でしかない(20170806社説)

今の科学技術の水準では、核兵器による攻撃や脅しは、核兵器による反撃の構え(核抑止力)がなければ抑えきれない。不本意であっても、それが現実なのだ(20161030社説)

として、条約に参加しない日本政府の判断は妥当だと評価しています。

中国や北朝鮮などの近隣諸国は核戦力増強に走っている。これが現実の脅威であり、米国の「核の傘」の重要性は増している(20161030社説)

と指摘。核兵器廃絶に向けては

核兵器の廃絶は人類の悲願である。しかし、急進的な禁止条約は実効性に欠ける。核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)などの枠組みで、核軍縮を進める漸進的方策にこそ注力すべきである(20170403社説)

と主張しています。

日経新聞「ただちに核の傘をなくすことはできない」

このように、「核兵器禁止条約」への日本の不参加をめぐって、朝日・毎日が否定的、読売・産経が肯定的な立場を明確にしているのに対して、日経は

核廃絶の理念を追求しながら、差し迫る北朝鮮の核の脅威にどう対処するのか。政府は条約不参加の理由や、今後の核軍縮に向け日本が国際社会で果たすべき役割を、もっと丁寧に説明すべきだ。被爆者への責務である(中略)核軍縮議論をいかに前進させるのか。日本の覚悟が問われている(20170806社説)

と指摘。日本政府に対して「丁寧な説明」を求め「覚悟が問われている」としつつも、日本政府の判断について賛否をはっきり示していません。
「核の傘」をめぐっては、

日本は唯一の被爆国として核廃絶を訴える一方で、米国の核戦力によって守られているという矛盾した顔をもつ。核保有国に囲まれた現状では、ただちに米国の「核の傘」をなくすことはできないにせよ、核軍縮の流れを主導する責任が日本にはある(20160528社説)

と述べるにとどまっています。