20160214マイナス金利5新聞スタンス図

(注)2016年2月11日に追記しました。
(注)2016年2月18日に追記しました。

日経平均株価が下落しています。日銀が2016年1月29日に「マイナス金利の導入」を発表した当日は、乱高下しつつも株価は上昇しましたが、その上昇分はその後の下落でかき消されました。そして2月9日、長期金利の指標である満期10年の国債の利回りが史上初めてマイナスへと低下しました。
この一連の動き「日銀によるマイナス金利の導入」と「史上初の長期金利マイナス」について、主要5紙の社説を比べると、その評価や取り上げ方には差が見られます。

「日銀によるマイナス金利の導入」について

日銀が導入を発表した翌日、5新聞が社説を掲載しました。各紙が指摘した問題点は主に以下のポイントです。

指摘されるマイナス金利の問題点

  • 企業の資金需要が乏しいという根本的な問題の解消にはならない
  • マイナス金利は、銀行の収益圧迫や預金金利の低下など副作用も懸念される
  • 金融緩和だけでは経済の改善は難しく、政府による成長戦略の充実・実行が重要

このように問題点が指摘される「マイナス金利導入」ですが、日経・読売の2紙は社説で好意的に受け止めました。

日本経済が再び物価の持続的な下落であるデフレ局面に戻る事態は避けなければならない。そのための日銀の対応は理解できる(日経20160130社説)

国際金融市場が年初から大混乱に陥り、世界経済の先行き不安が強まる中、日銀が機動的な対応を取ったことは評価できる(読売20160130社説)

また、産経は次のように述べており、2紙ほどではないものの「やや好意的」な立場です。

世界市場の混乱で脱デフレが滞る事態を絶対に避けるという、強い決意の表れである。同時にこれは、安倍晋三政権が期待するほどには経済再生を果たせていないことを示している(産経20160130社説)

一方、朝日・毎日の2紙は否定的な見解を示しました。

効果がはっきりしない政策に頼らざるをえなくなっている日銀の苦しい事情が見える(中略)手法はいよいよ限界にきている(朝日20160130社説)

苦しまぎれの冒険だ(中略)黒田日銀はこの先どこまで突き進むのか。不安は募る一方である(毎日20160130社説)

日銀の金融緩和について、肯定的にとらえてきた日経・読売・産経の3紙と否定的にとらえてきた朝日・毎日の2紙という構図が今回も継続しています。

「史上初の長期金利マイナス」について

マイナス金利の導入を日銀が発表した当日は最終的に株価は上昇しましたが、その後、国際的な経済情勢の影響も受けて株価は下落。そして2016年2月9日長期金利も日本国内では史上初めてマイナスとなりました。この件を翌日の社説で取り上げたのは、朝日・毎日・日経の3紙です。
「日銀によるマイナス金利の導入」に否定的なスタンスの朝日・毎日は、今回の長期金利マイナスは、マイナス金利が影響していると指摘しています。

こんな異常な金利が生じたのは、先月29日に日本銀行が発表した「マイナス金利政策」の影響である(朝日20160210社説)

国内外のさまざまな要因がからみ合った結果ではあるが、先月末、日銀が決定したマイナス金利の導入が響いているのは間違いない(毎日20160210社説)

この2紙は、日銀が政策を見直すべきと主張しています。

このままでは超金融緩和を続けないと回らない経済へと、はまっていきかねない。出口はますます遠くなるばかりだ。早急に政策の見直しが必要だ(朝日20160210社説)

日銀は、マイナス金利がもたらす負の影響を精査し、場合によっては撤回も排除しないといった柔軟な姿勢で対応を検討すべきではないか(毎日20160210社説)

一方で、「日銀によるマイナス金利の導入」に好意的な立場の日経は、今回の長期金利マイナスは、日銀のマイナス金利だけでは説明できないと指摘しています。

それ(編集部注:日銀のマイナス金利政策)だけで長期金利がマイナスになった理由は説明できない。世界経済が急減速しかねないとの市場の懸念が背景にある。中国経済は減速し、その余波で原油などの資源価格が下落している。米国の利上げも背景に、資源国から資金流出が進んでいる。こうしたグローバルな資金の急速な巻き戻しが、長期金利のマイナスの一因だ(日経20160210社説)

そして日経は「国際協調」の重要性を指摘しています。

今月末に中国で開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を念頭に、世界経済の成長持続と市場安定に向けた協調を探るときだ(日経20160210社説)

なお、読売・産経の2紙は2月10日の社説ではこの件を取り上げていません。

以下、2016年2月11日追記

3新聞の社説掲載に1日遅れ、読売と産経も2月11日に社説で取り上げました。

「日銀によるマイナス金利の導入」に「やや好意的」な立場の産経新聞は、今回の長期金利マイナスは、マイナス金利の導入による「当然の帰結」だと指摘しています。

日銀の追加金融緩和をきっかけとする金利低下である(中略)日銀が1月末に決定したマイナス金利政策は、民間銀行が日銀に預ける資金の一部に事実上の手数料を課すものだ。これにより金利水準を全般的に下押しする。長期金利のマイナス自体は、ここで想定された当然の帰結といえる(産経20160211社説)

一方で、「日銀によるマイナス金利の導入」に好意的な立場の読売新聞は、今回の長期金利マイナスは、マイナス金利の導入もきっかけとしつつも、グローバル経済情勢によって日銀の政策効果が打ち消されたものだとしています。

日銀が「マイナス金利」政策を導入し、金利水準を下げる姿勢を示したのもきっかけだ(読売20160211社説)

このように、「マイナス金利」と「長期金利のマイナス」との因果関係について評価の異なる2紙ですが、その提言は以下のように共通しています。

大切なのは日米欧や中国などの連携である。2月下旬には20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がある。市場の混乱に歯止めをかけるため、ここで政策協調の姿勢を強く打ち出せるかが問われている(産経20160211社説)

各国金融当局は、政策協調を急ぎ、世界の金融市場の安定を図らねばならない(読売20160211社説)

この「経済対策における国際協調が重要である」という主張は、日経・読売・産経が一致した形です。
朝日・毎日が主張する「政策の見直し」は、強気な姿勢で次々と政策を打ち出してきた黒田総裁率いる日銀にとって受け入れがたい選択肢です。一方で、グローバルに結びつく経済の中で、一国の中央銀行に過ぎない日銀の政策だけでは対応に限界があるのも現実です。3紙が主張するように、経済や金融政策をめぐって国際社会で協力することができるのかが大きなポイントとなりそうです。

以下、2016年2月18日追記

朝日新聞も社説で国際協調の重要性を指摘しました。

まずは金融・資本市場の動揺を抑える国際協調である(中略)今月下旬には中国・上海で20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がある。どんな手を打てるか、幅広く議論してほしい(朝日20160216社説)

毎日新聞は2016年2月18日現在、社説でまだこの点には触れていませんが、「国際協調が重要である」という見方については、日銀のマイナス金利導入への賛否に関わらず共通した見方となっています。