原発の規制基準は「世界で最も厳しい」ものになったの?

過酷事故への対策や最新基準への適合を義務づけるなど、
新たな規制基準は従来よりも厳しくなりました。
ただ、ヨーロッパの新型炉にある設備が要求されていないため、
「世界で最も厳しい」わけではないという批判があります。
規制委員会の田中委員長は「世界最高水準」と表現しています。

原発事故後に強化された新たな規制基準

原発事故をふまえて2012年9月「原子力規制委員会」が発足します。

原発を推進する経産省の下に規制機関が置かれていたことへの反省から、
経産省の「原子力安全・保安院」と内閣府の「原子力安全委員会」などが一元化され、
環境省の外局と位置づけられました。

原子力規制委員会は「3条委員会」と呼ばれる独立性の高い組織で、
委員長を含めた5人の委員が過半数で物事を決める合議制です。
また、その事務局として原子力規制庁が設けられました。

原発事故の教訓をふまえた新たな規制基準が2013年7月8日に施行されました。
主なポイントは以下の通りです。

過酷事故対策

  • 「緊急時対策所」の設置
  • フィルター付きベント設備の設置(PWRは5年間の猶予)
  • 原子炉を冷やすための電源車や注水車の配備
  • 外部電源の多重化、非常用電源車

津波対策

  • 防潮堤、防水扉の設置

地震対策

  • 活断層を40万年前までさかのぼって調査(従来は12~13万年前まで)

火災対策

  • 燃えにくい電気ケーブルへの交換

テロ対策

  • 「緊急時制御室」の設置(5年間の猶予)

その他

  • 運転期間「原則40年」を明記(20年延長の道あり)
  • 「バックフィット」で常に最新の安全技術を反映
  • 噴火対策:活火山の調査

なお、フィルター付きベント設備のところの「PWR」とは加圧水型軽水炉のことです。
原発には、沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)の2種類があります。

福島第一原発などBWRと比べてPWRは格納容器が大きく、圧力が上がりにくい特徴があります。
そのため、フィルター付きベント設備の設置についてPWRは5年の猶予期間が設けられています。

また、「バックフィット」とは「さかのぼって適用する」といった意味あいで、
既に運転している原発にも、常に最新の規制基準への適合を義務づけることになりました。

このように、福島第一原発事故の教訓をもとに規制基準は様々な点で厳しくなりました。
ただ、ヨーロッパの新型炉にある「コアキャッチャー」が求められていない点が指摘されています。

新規制基準は「性能要求」であり「コアキャッチャー」は求めず

「コアキャッチャー」とは、
過酷事故の際にも溶けた燃料が格納容器を突き破らないように受け止める設備で、

原子炉内の核燃料が溶融し、圧力容器が破損するに 至った場合でも、溶融した燃料を受け止め、冷却水等により冷却することで、格納容器の破損を回避
資源エネルギー庁資料より引用)

するものです。
フランスのアレバ社が設計する新型原子炉に見られますが、
新規制基準ではコアキャッチャーを求めていません。

2014年7月2日に行われた原子力規制委員会の記者会見で、
指摘と回答が分かりやすい以下のやりとりがあります。

【記者】
世界最高水準を目指すということで、新しい技術ですとか、海外で取り入れられている事例なども参考にされることもあるかと思うのですが、さらに事業者に対するレベルアップを要求するという意味でも、具体的に、例えばコアキャッチャーですとか二重の格納容器といった設備を今後要求していく、求めていくというような考えはないのでしょうか。
【田中委員長】
世界中のいろいろな経験を、レッスンを学んでバックフィットをさせていきたいと思いますけれども、今おっしゃったようなコアキャッチャーとか二重格納容器とかという問題はちょっと質の違う話だと思います。
【記者】
コアキャッチャーに関してですけれども、核燃料が漏れたときにそれを受け止めるという、ざっくりそういう設備だと思うのですけれども、こういったものがあれば、 もし何か事故が起きたときに、人の手が届かなくても時間稼ぎをできるという役割があると思うのですが、そういったことがあれば、少しは事故の対応に対して時間稼ぎができるということで、意味がある設備ではないかと私は思っているのですけれども、そういった海外の事例を取り入れられるというようなお考えはないのかということで、もう一度お伺いできればと思います。
【田中委員長】
コアキャッチャーって、そういう機能なのですか。どっちかというと溶けた燃料を広げようというシステムだと思いますよ。
【記者】
受け止めて広げて冷却するという、ざっくり言うとそういうことだと思うのですけれども。
【田中委員長】
だから、その機能さえできればいいのではないですか。
【記者】
現状のものでは、例えばコアキャッチャーでなくても、それで十分果たせるということでよろしいのでしょうか。
【田中委員長】
一応、格納容器の底の方に水が張れるようになっているとか、そういうふうにしているはずです。
【田口技術基盤課課長補】
基準を担当しております田口と申します。
今の新規制基準なのですけれども、燃料が溶けて圧力容器から下に落ちまして、格納容器の下に行くことを想定をして、基準で求めているのは、底に落ちた燃料を冷やせるようにということだけを求めております。これを実現する具体的な技術については特に指定をしておりませんので、ある意味事業者側に選択の余地が残されています。したがいまして、今の基準でもコアキャッチャーで申請をしようと思えばできることになっていましたし、仮に申請がありましたらそれは審査の中で見ていくことになろうかと思います。

田中委員長は2014年9月10日の会見でも次のように述べています。

コアキャッチャーが付いて実際稼働している原子炉は、世界に1つもありません。EPRというヨーロッパのアレバが設計している原子炉については、コアキャッチャーを付けるという設計になっていますけれども、それに代わる、要するに、規制というのは性能要求であって、別に個別の機器の要求をしているわけではないのです。それをどういうふうに担保するかということは、今後そういったこの機器でできるかどうかということを含めて審査をしていく、工認で確認していくと、こういうことになるのです。

つまり、規制基準は「性能要求」であり、個別具体的な技術を指定しない。
溶け落ちた燃料を広げて冷却する機能を要求しており、それを果たせばよいという説明です。

「世界で最も厳しい」というのは政治的表現

原発の新たな規制基準について、
「世界で最も厳しい」という表現を安倍首相など政治家がしばしば用います。

菅直人元首相は、2014年4月16日に提出した質問主意書で、
「世界で最も厳しい水準の規制基準」という根拠は何か、を問いました。

それに対する政府答弁書(2014年4月25日)では、以下のような回答です。

国際原子力機関や諸外国の規制基準を参考にしながら、我が国の自然条件の厳しさ等も勘案し、地震や津波への対策の強化やシビアアクシデント対策の導入を図った上で、世界最高水準の基準となるよう策定したものである。

この「世界最高」という表現について、原子力規制委員会の田中委員長は、
2014年7月2日の記者会見で次のように述べています。

私が最高水準にあるというのは、様々な、いわゆる重大事故対策について我が国の場合は特に外的な要因、自然条件が厳しいということを含めて、そういうものに対する対応というのは相当厳しいものを求めているということから最高水準であるということを申し上げてきた

若干、世界最高水準とか世界最高とかいうのは、やや政治的というか言葉の問題なので、具体的ではないのですね。今、私どもが求めているのは適合性。適合すべき基準については相当厳しいレベルにあって、それがここを見ていけば2番目とか3番目だとかそういういろいろな意見はあるでしょうけれども、全体として原子力発電所のある程度セーフティを守るという意味では相当高いレベルにある、最高のレベルにあると思っています。

情報ソース、参考ページ等