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政府「骨太の方針」で財政健全化目標を5年間先送り
2018年6月15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」いわゆる「骨太の方針」の中で、来年10月に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げについては「実現する必要がある」として、引き上げる方針を明記しました。その上で、消費増税に伴う消費の落ち込みを抑えるため、「臨時・特別の措置を2019・2020年度当初予算において講ずる」として、財政出動を行う方針を示しています。
一方で、財政再建をめぐっては、社会保障や公共事業など国の政策に必要な経費を税収でどれだけまかなうことができているかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)」を2020年度に黒字化するとしてきた目標を5年間先送りし、2025年度としました。この目標達成にむけた進捗状況を確認するために2021年度に以下の3つの「中間指標」を設定しました。
- 基礎的財政収支の赤字の対GDP比:2017年度から半減(1.5%程度)
- 債務残高の対GDP比:180%台前半
- 財政収支赤字の対GDP比:3%以下
また、2019年度〜2021年度を、医療や介護などの社会保障制度の改革を進める「基盤強化期間」と位置づけました。しかし具体的な数値目標は盛り込まれておらず、実効性を懸念する声が上がっています。
さらに、これらの目標は「実質2%、名目3%」という経済成長率を前提にしていて、潜在成長率が1%程度とされる日本経済にとっては現実的ではないと批判されています。
これまでの経緯
安倍政権、消費税率引き上げを2度延期
2012年に民主党(当時)と自民党、公明党の3党が合意した「社会保障と税の一体改革」において、消費税率を2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へ引き上げることとされました。この消費増税で得られる財源で、社会保障の充実・安定化と財政の健全化を目指す方針でした。具体的には、消費税率を10%に引き上げる際の増収分の5分の1を社会保障の充実に、5分の4を借金返済に充てることとされていました。
安倍政権はこの方針に沿って、2014年4月に消費税率を8%へと引き上げましたが、10%への引き上げについては2度延期し、2019年10月に引き上げられることになりました。
安倍政権の消費増税の「使い道変更」でPB黒字化さらに遠のく
財政再建をめぐり、政府は基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2020年度に黒字化する目標を掲げ、国際社会でも説明してきました。
しかし、2017年1月に政府が示した試算では、名目3%という高い経済成長率を前提としても、2020年度のPBは8.3兆円の赤字で、PB黒字化の達成がほぼ不可能であることは明らかでした。
こうした中、2017年9月25日、安倍首相は記者会見で、消費増税の「使い道」を子育て世代への投資拡充へと変更する考えを表明し、衆議院選挙で信を問うと訴えました。
これによりPB黒字化の達成はさらに遠のくことになりましたが、安倍首相は「財政再建の目標自体はしっかりと堅持し、達成に向けた具体的な計画を策定する」と述べるにとどめ、新たな財政健全化目標は示しませんでした。
賛否両論(政府の財政削減目標と批判)
否定的な意見
- 将来へのツケが増えるばかりで無責任
- 歳出削減の実効性を担保できるのか疑問
- 非現実的。慎重に見積もるべき
新たな財政健全化目標
- PB黒字化達成時期を2025年度へ5年間先送り
- 社会保障費の伸びに数値目標を設定せず
- 名目3%の成長率を前提に計算
新聞各社の主張(政府の財政再建への取り組みへの評価)
朝日新聞(2018年6月18日社説)批判
踏み込み不足と言わざるを得ない(略)危機意識があるのなら、早期に負担と給付の見直しに向けた議論を始め、超高齢社会を乗り切るための財政と社会保障の見取り図を示すべきだ
毎日新聞(2018年6月17日社説)批判
1000兆円超の借金に対する危機感がまるで欠けている(略)深刻な財政を直視し歳出抑制に本腰を入れるべきだ
日経新聞(2018年6月16日社説)批判
財政健全化への踏み込みが甘い(略)景気の回復による自然増収に頼りすぎていると言わざるを得ない
読売新聞(2018年6月6日社説)批判
財政健全化への踏み込みが足りない(略)歳出抑制が不可欠だが、方針案は削減の具体的な方策を十分に示していない
産経新聞(2018年6月6日社説)批判
目標設定には甘さが目立ち、むしろ財政規律が緩む懸念が先に立つ
社説読み比べ
5紙ともに、財政健全化目標の前提としている経済成長率が高すぎることや、社会保障費を抑える数値目標を盛り込んでいないことを批判し、政府の取り組みが不十分との立場で一致しています。
また、2021年度に設けた「中間目標」についても、
財政再建の目標時期そのものは25年度へ先送りし、21年度までは甘めの指標で財政運営の自由度を得る。そんな意図が透けて見える(2018年5月30日朝日社説)
首相が秋の自民党総裁選で3選されても任期は21年限りだ。それまでは財政出動の余地を残し、あとは頬かむりとみられても仕方がない(2018年6月17日毎日社説)
内閣府の中長期試算では、新たな改革を講じなくても、今回の計画で掲げた債務残高と財政収支の目標を達成できる見通しである。身を切る改革への意志は弱い(2018年6月6日産経社説)
と指摘されています。
オピニオンリーダーの声
プライマリーバランス黒字化、政府発表、2020年から2025年に。
できないのにできると言うな。目標とはそういうものではない。ずるずる延ばすより、できないならできない、できないことを正当化するなら、その正当化のロジックを示せばよい。いずれにしろ説明責任になっていない。— 猪瀬直樹/inosenaoki (@inosenaoki) 2018年6月15日
改革工程表を年末までに示すと明言したことを踏まえれば、「骨太方針2018」で財政健全化にコミットできなかったのは・・・安倍政権中枢でこの5~6月に改革工程表を取りまとめられるだけの(物理的?人的?頭脳的?)余裕がなかったからということではないか。https://t.co/5ui98rGjcp #NewsPicks
— 土居丈朗 (@takero_doi) 2018年6月15日
つまり今回の方針で明確になったのは、「もはや日本の課題は財政赤字ではなく、人口減少である」ってことです。財政再建なんかより、人手不足対策のほうが急務だと明確になった2018年。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2018年6月17日
コメント
2件のコメント
植島 俊明
2020年07月12日 14:59
そもそも財政再建などという命題は存在しない。そのことを主張できる新聞メディアはなくなってしまった。何しろ軽減税率を採用することで、魂を売ってしまったのだから。だからすべての新聞が、財政再建の努力が足りないという論評になっている。メディアサプリも、新聞以外の論調も調査しないといけないのでは
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植島 俊明
2020年07月12日 14:54
財政を健全化することは、日本滅亡への道となります。まず、財政健全化により、国民の預金が減ります。国民が窮乏化します。政府の赤字は、国民の黒字であるからです。政府が赤字を減らせば国民の黒字が減ることになります。公共事業への投資が行われないことで、自然災害への耐性が低下し、老朽インフラによる事故が増えます。ハイウェイ等港湾のインフラ整備が遅れ、国際競争力を欠くことになります。内需国である日本で、購買力を減らすデフレからの脱却を、きちんと進めていない段階で消費税を引き上げるなどの、無謀なことをやっている。財政再建は行わなくてよいものであり、国債の残高は単に貨幣の発行残高を示しているものにすぎないことを理解しなければならない。
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