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史上初の米朝首脳会談。非核化への具体策は共同声明に盛り込まれず
2018年6月12日、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮のキムジョンウン朝鮮労働党委員長は、シンガポールで史上初の米朝首脳会談を行い、共同声明に署名しました。
共同声明には、「トランプ大統領は北朝鮮に対して安全の保証を提供する約束をし、キム委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固として揺るぎない決意を再確認した」などと記されました。その一方で、アメリカが求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」の言葉は盛り込まれず、非核化にむけた具体的な行動や検証方法、期限などについては、米朝間の今後の交渉に委ねられた形です。
これまでの経緯
朝鮮戦争の勃発と休戦
1945年8月に第2次世界大戦が終結すると、朝鮮半島は日本の植民地統治から解放され、北緯38度線を境にソ連とアメリカによって分割統治されます。その後、1948年8月に韓国が、9月には北朝鮮が成立します。
1950年6月、北朝鮮が韓国に侵攻し始まった朝鮮戦争は、アメリカ軍を中心とする国連軍、中国の人民義勇軍が介入し、1953年7月に休戦協定が結ばれます。この状態が今日まで続いていて、平和条約は未だに結ばれていません。
「第1次核危機」と「米朝枠組み合意」
北朝鮮の核開発疑惑が浮上する中、1993年3月、北朝鮮はIAEA(=国際原子力機関)の求める査察を拒否し、NPT(=核不拡散条約)からの脱退を宣言しました(第1次核危機)。アメリカは北朝鮮に対する軍事行動を検討し緊張が高まりますが、1994年6月にアメリカのカーター元大統領が北朝鮮を訪問し、キムイルソン主席と会談します。これをきっかけに融和路線へと進み、1994年10月にアメリカと北朝鮮は「米朝枠組み合意」に調印しました。北朝鮮が核開発を凍結する見返りに、アメリカは軽水炉の建設を支援し、年間50万トンの重油を供給する、などの内容です。
「第2次核危機」と「6か国協議」
北朝鮮は、米朝枠組み合意の後も核開発を続けていました。2002年10月、アメリカ政府は「北朝鮮が高濃縮ウランの施設建設を認めた」と発表し、米朝枠組み合意は崩壊しました(第2次核危機)。北朝鮮は2002年12月にIAEA査察官の国外追放を発表。2003年1月にはNPTからの脱退を再び宣言します。
こうした中、2003年4月にアメリカ・中国・北朝鮮が北京で3か国の協議を開きます。そして2003年8月、この3か国に日本・韓国・ロシアを加えた6か国による会合「6か国協議」が初めて開催され、北朝鮮の核開発問題について対応を協議しました。
2005年9月には6か国協議の共同声明が採択されます。ここでは、北朝鮮は全ての核兵器や既存の核計画を放棄し、アメリカは北朝鮮を攻撃する意図がないことを確認することなどが盛り込まれました。
しかし、その後、非核化の検証方法などをめぐり米朝が対立。北朝鮮は2006年10月に初めての核実験を行うなど核開発を継続し、6か国協議は2008年12月を最後に中断しています。
北朝鮮「核戦力の完成」宣言。2018年から対話路線に転換
2011年12月にキムジョンイル総書記が死去。新たな最高指導者となったキムジョンウン氏は、核・ミサイル開発を加速させます。弾道ミサイルの発射や核実験を繰り返し、2017年11月には「核戦力の完成」を宣言しました。この間、アメリカのトランプ大統領との間で批判の応酬がエスカレートし、両国間の緊張が高まります。
しかし、2018年に入ると、キム委員長は韓国で開催されたピョンチャン五輪などの場を利用して、対話路線にカジを切ります。2018年3月にはキム委員長が初めて中国を訪問し習主席と会談。4月には史上3度目となる韓国との南北首脳会談を行いました。
この対話路線にトランプ大統領も応じ、2018年6月12日に、シンガポールで史上初めてとなる日朝首脳会談を開催することになりました。
賛否両論(米朝首脳会談の成果)
否定的な意見
- 非核化の意思を再確認しただけで前進ではない
- 首脳間の合意に非核化の具体策を盛り込むべきだった
- 目先の成果を得たいトランプ大統領の「政治ショー」ではないか
- 米韓合同軍事演習の中止に言及したのは譲歩が過ぎる
- 今回も北朝鮮は約束を反故にする懸念
- 共同声明の中に拉致問題が明記されていない
米朝首脳会談の成果
- 北朝鮮の「非核化への決意」を文書に明記した
- 非核化の具体的プロセスは実務者が今後協議していく
- 米朝の首脳が対話できる関係を作ったのは意義がある
- 交渉の進展次第では演習を中止しないこともある
- 北朝鮮が非核化するまで制裁は維持する
- トランプ大統領はキム委員長に拉致問題を提起した
新聞各社の主張(会談の成果に対する評価)
朝日新聞(2018年6月13日社説)評価は時期尚早
2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった(略)今後予定される米朝協議で、着実に非核化措置を築かない限り、トランプ氏の外交は称賛されない
毎日新聞(2018年6月13日社説)評価は時期尚早
首脳会談は「政治ショー」の色彩がつきまとった。金氏の訪米を招請したのもトランプ流だろうが、その成否は今後の推移で判断するしかない。焦点はもちろん、北朝鮮が速やかに核廃棄に着手するかどうか、である
日経新聞(2018年6月13日社説)評価は時期尚早
北朝鮮の完全な非核化を実現し、朝鮮半島の緊張緩和と北東アジアの平和をもたらすには、遠く険しい道のりが控える。真に新たな歴史を刻んだとみなすのはまだ早い
読売新聞(2018年6月13日社説)評価は時期尚早
米国と北朝鮮が首脳同士の信頼関係を築く歴史的会談となった。緊張緩和は進んだものの、北朝鮮の非核化で前進はなかった。評価と批判が相半ばする結果だと言えよう
産経新聞(2018年6月13日社説)やや否定的
金委員長から内実を伴う核放棄を引き出せなかった交渉に、限界を指摘せざるを得ない
社説読み比べ
5紙とも、米朝首脳会談の開催そのものを「歴史的」とする一方で、共同声明に非核化の具体策が盛り込まれなかったことに対して、
合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった(略)米国が会談を急ぐ必要があったのか大いに疑問が残る(朝日)
北朝鮮が誠実に非核化を実行する保証がどこにあるのか。せっかくの歴史的な会談なのに合意内容がいつの間にか後戻りしないか不安になる(毎日)
北朝鮮は今回も米国の軍事的圧力の緩和や経済支援の獲得、新たな核開発の時間稼ぎなどを狙っている可能性は否定できない(日経)
金委員長が核を手放す決断を下したかどうかは、不透明だと言わざるを得ない(読売)
金委員長から内実を伴う核放棄を引き出せなかった交渉に、限界を指摘せざるを得ない(産経)
などと批判しています。その上で、
これを起点に懸案の解決への道筋を開かねばならず、失敗に終われば、回復困難な禍根を将来にわたって残すだろう(朝日)
(トランプ流の外交の)成否は今後の推移で判断するしかない。焦点はもちろん、北朝鮮が速やかに核廃棄に着手するかどうか、である(毎日)
今度こそ完全かつ検証可能で不可逆的な非核化につなげねばならない(略)北朝鮮の真意を探りつつ、慎重に米朝協議を進める必要がある(日経)
(非核化に向けた作業を)どのような手順で、いつまでに完了させるのか。一連の措置の要領と期限を明記した工程表の作成が欠かせない(読売)
真の核放棄に向けた作業は粘り強く継続しなければならない。まずは、双方が約束した国務長官らによる協議を早急に開くことが重要である(産経)
などとして、北朝鮮の非核化を早期に具体化させるよう求めています。
結局、今回の米朝首脳会談では非核化を目指すという原則論の確認にとどまったため、交渉の行方を見守るしかない、という見方が大勢です。
オピニオンリーダーの声
#米朝首脳会談 は歴史的な会談だったかもしれないが、歴史的な合意とは言い難い。共同声明と言っても、非核化に関して具体的な成果(中身)はほとんどなかった。CVIDという文言はなくても「体制保障」という言葉は盛り込まれた。米朝の交渉がスタートしたということだ。
— 山本一太 (@ichita_y) 2018年6月12日
大きな歴史的イベントであることは間違いない。ただ、共同声明には核(CVID)も、拉致も、ミサイルも何ら言及なし。現時点で日本の国益に照らして「成功」だと言えるものは何もない。全てはこれからだ。一方、大統領の会見を聞くかぎり、日本と韓国が非核化のお金を払うことだけは明確になったようだ。
— 玉木雄一郎 (@tamakiyuichiro) 2018年6月12日
米朝首脳会談について、「専門家」と称する人があれこれの否定論・懐疑論を並べるが、何よりも重要なのは、米国、北朝鮮、韓国、日本、そして全世界の人々が、戦争の脅威、核戦争の脅威から抜け出す扉を開いたことだ。これは誰も否定できない。偉大な歴史的成果だ。 https://t.co/mfSEpACxpV
— 志位和夫 (@shiikazuo) 2018年6月14日
米朝会談。「非核化の費用は韓国と日本が支払う」「日本の拉致被害問題は提起した」「戦争ゲームをやめる。膨大なお金を節約できる」。今回の会談で僕が感じたのは「自立」。勿論、日米の強固な関係は続くが、「自立する国家・日本」の判断を迫られている。https://t.co/rnKDbKsBhe # #Yahooニュース
— 吉村洋文(大阪市長) (@hiroyoshimura) 2018年6月12日
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