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憲法記念日にあたり、各党が改憲への立場を公表

5月3日の憲法記念日にあたり、各党は声明などを発表しました。
憲法改正に最も積極的なのは自民党です。改正項目としては「自衛隊の明記」をはじめ4項目を掲げていて、「憲法改正の議論をリードしていく決意だ」と訴えています。
自民党と連立政権を組む公明党は慎重な立場で、「政党間で幅広い合意を得ながら、国民理解の成熟をともなっていくことが重要だ」と指摘しています。
野党のうち、日本維新の会は憲法改正に積極的です。改正項目としては「教育無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所設置」を掲げ、「国民投票を実施し、真に国民の定めた憲法にする」と主張しています。
これに対して、他の野党6党は安倍政権の目指す憲法改正をけん制しています。
憲法改正の議論の場としては衆院・参院それぞれに「憲法審査会」がありますが、森友学園や加計学園、財務次官のセクハラ問題など様々な不祥事も背景に、議論は進んでいません。
安倍首相は去年の憲法記念日に「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と強い意欲を示しましたが、実現は見通せない状況です。

これまでの経緯

自衛隊は憲法違反?

日本国憲法に自衛隊は規定されておらず、9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という条文との関係が議論されてきました。
政府はこれまで「自衛のための必要最小限度の実力組織は『戦力』に当たらない→自衛隊は憲法9条2項における『戦力』ではない→だから自衛隊は憲法違反ではない」と「解釈」してきましたが、憲法学者からも「自衛隊の存在は憲法違反の疑いがある」と指摘されてきました。
そこで自民党は野党時代の2012年4月に「日本国憲法改正草案」を作成します。この草案では、憲法9条2項を改正した上で「国防軍」の存在を憲法に書き加えることとされていました。しかし、憲法改正に向けた具体的な機運は高まりませんでした。

安倍首相の提案「9条を維持したまま自衛隊を憲法に明記」

こうした中、2017年5月に安倍首相が一石を投じます。
安倍首相は「私たちの世代のうちに自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考える」と訴え、「憲法9条1項・2項を残しつつ、自衛隊の存在を明記する」ことを提案したのです。そして「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている」と述べ、憲法改正を目指す時期にまで踏み込みました。
2017年10月の衆議院選挙では、自民党は国政選挙の重点項目として初めて憲法改正を掲げて勝利。憲法改正のための国民投票を実施するには国会議員の3分の2による発議が必要ですが、憲法改正に前向きな勢力は衆参ともに3分の2を超え、憲法改正が現実味を帯びてきました。

自民党内の議論、安倍首相案に沿って取りまとめ

自民党は「憲法改正推進本部」において、安倍首相の提案を軸に議論を進めました。しかし、自民党内には2012年にまとめた憲法改正草案のように「憲法9条2項を削除すべき」との意見も根強く、議論がなかなか収束しません。
こうした中、2018年3月25日の自民党大会(年に1度の最高意思決定機関)の直前に、憲法改正推進本部の細田本部長に対応が一任されました。細田氏は安倍首相案に沿って9条改正案を取りまとめました。
ただし、異論にも配慮し「有力案」という位置付けで、党内意見を最終的に一本化できたわけではありません。

賛否両論

「自衛隊の明記」反対派の主張

  • 自衛隊は合憲と解釈されていて、憲法改正の必要がない
  • 憲法改正より先に取り組むべき課題がある

「自衛隊の明記」賛成派の主張

  • 自衛隊が憲法違反の疑いがある状態を解消すべき
  • 隊員の士気を高め、抑止力の向上に資する

社説読み比べ(憲法改正〜自衛隊の明記〜の是非)

朝日新聞(2018年5月3日社説)(5月4日社説反対

朝日新聞は、5月3日、4日と2日間にわたってこの問題を取り上げています。5月3日の社説では、

そもそも憲法とは、国民の側から国家権力を縛る最高法規である。行政府の長の首相が改憲の旗を振ること自体、立憲主義にそぐわない

として、安倍首相の提案する憲法改正を真っ向から批判。森友学園や加計学園、財務次官のセクハラをめぐる問題など一連の問題を背景に、

「安倍1強政治」のうみとでもいうべき不祥事が、次々と明らかになっている。憲法の定める国の統治の原理がないがしろにされる事態である。とても、まっとうな改憲論議ができる環境にない

と訴えています。4日の社説では、

そもそも政府は一貫して「自衛隊は合憲」と説明し、国民にも定着している。9条改憲に政治的エネルギーを費やすのは、政治が取り組むべき優先順位としても疑問が残る

自衛隊が憲法上の機関という「錦の御旗」を得れば、時の政権の判断次第で、米軍支援や海外派遣、兵器の増強がなし崩しに拡大する恐れがある

と主張。
自衛隊を憲法9条に明記する安倍首相の提案は「9条の空洞化を進める試み」だと指摘し、「9条を変わらぬ礎として、確かな外交、安全保障政策を考え抜かなければならない」として、9条改正に反対しています。

毎日新聞(2018年5月3日社説やや反対

毎日新聞は、憲法審査会での議論が進まないのは安倍首相の信用が下がっているためだと指摘。その原因として、森友学園や加計学園、自衛隊の日報問題や財務次官のセクハラ問題などをめぐる政府の対応を挙げ、安倍政権を厳しく批判した上で、

安倍政権では、首相の過剰な権力行使が目立つ

国会と内閣の同時掌握が「安倍1強」の根底にある。ここに権限のフル活用をためらわない首相の個性が加わって、日本の憲法秩序は安倍政権を通じて大きく変容してきたと言わざるを得ない

現状は政権党が政府の下請けに偏り過ぎている

として「立法府と行政府のバランスの悪さ」を指摘しています。憲法9条をめぐっては「議論するのはおかしくない」としつつも、

本当に国民の利益になる憲法の議論は、健全な国会があってこそ成り立つものだろう(略)まずは国会が首相権力への統制力を強めるよう求める

として、憲法改正論議よりも「首相権力の統制が先決だ」というスタンスです。

日経新聞(2018年5月3日社説やや反対

日経新聞は、自衛隊を明記する憲法改正案について、

自衛隊明記案が国民投票で仮に否決されても、自衛隊が合憲であるとの立場に変わりはないそうだ。可決でも否決でも合憲ならば、わざわざ国民投票を実施する必要があるのだろうか

と必要性を疑問視。

憲法改正を急ぐいまの安倍政権を見ていると、憲法に不具合があるというよりは、安倍首相の政治的遺産づくりに軸足があるのかと勘繰りたくなる

と指摘しています。その一方で、改憲の議論に消極的な野党に対しても

改憲に本当に反対ならば、手続き論ではなく、政策論で勝負すべきだ

と批判。

与野党間の信頼を徐々に醸成していく。改憲項目の本格的な検討はそれからでも遅くない

として、憲法改正には時間をかけて取り組むべきというスタンスです。

読売新聞(2018年5月3日社説賛成

読売新聞は、自民党が憲法改正の4項目の考え方をまとめたことについて

改正項目を絞り、具体的な条文案として提起したのは評価できる

と評価。最大の焦点である「自衛隊の明記」についても

自衛隊に正統性を付与し、違憲論を払拭ふっしょくする意義は大きい

と賛成する立場です。憲法審査会での議論に応じない野党に対して

政局に絡め、議論を拒むのは疑問だ(略)野党は審査会で、自民党の改憲案について見解を明らかにするのが筋だ

と批判し、

国民が憲法改正を実現する意義を理解し、現実にそぐわない部分を手直しするのが望ましい。着実に議論を重ねたい

として、憲法改正の議論を促しています。

産経新聞(2018年5月3日社説賛成

産経新聞は、自衛隊を憲法に明記する意義として、以下の3つの意義を挙げています。

憲法学者の間の自衛隊違憲論に終止符を打つことができる

日本全体の安全保障論議と意識の底上げが期待できる

隊員の士気と日本の抑止力を高める

なお、産経新聞は

「戦力の不保持」を定めた9条2項を削除し、軍の保持を認めることが9条改正のゴールである。だが、政治情勢を考えれば、一足飛びにはいかない

と指摘していて、自衛隊の明記は一つのステップであり、最終的には憲法9条2項の削除を目指す立場です。

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