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安倍政権が働き方改革関連法案を閣議決定

2018年4月6日、安倍政権は「働き方改革関連法案」を閣議決定しました。法案の主なポイントは、「時間外労働の上限規制」「同一労働同一賃金」「インターバル制度の努力義務化」「高度プロフェッショナル制度」です。

「時間外労働の上限規制」と「同一労働同一賃金」そして「インターバル制度の努力義務化」の3つは労働者を保護する「規制の強化」となるのに対し、「高度プロフェッショナル制度」は、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す「規制の緩和」となります。

「高度プロフェッショナル制度」のもとでは、残業や休日出勤をしても割増賃金が支払われなくなることから、野党は「残業代ゼロ法案」などと批判しています。

働き方改革関連法案の主な内容

「時間外労働の上限規制」

現行制度では、労使が合意すれば、残業時間を事実上青天井で延ばすことができます。これに対し今回の法案では、長時間労働を是正するために、時間外労働の上限を原則月45時間・年間360時間とします。特別な事情がある場合は、年間6か月まではさらなる時間外労働を認めますが、最大でも年間720時間・月100時間未満としています。

この規制に違反した企業への罰則(6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金)も盛り込まれました。これに対して、月100時間の残業は「過労死ライン」であり、もっと厳しくすべきとの批判があります。施行予定日は、大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日です。

なお、トラック・バスなど自動車運転の業務や建設業、医師については法案の適用対象外とし、2024年4月に上限を設定するとしています。

「同一労働同一賃金」

同じ内容の仕事に対しては同じ水準の賃金を支払うという考え方で、企業に対し、正社員と非正規労働者の不合理な待遇の差を禁止し、待遇差が出る場合は理由を非正規労働者に説明することを義務づけます。また、すべての企業に対し、労働者の健康を確保するため労働時間を客観的に把握することを義務づけます。

施行予定日は、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日です。

「インターバル制度の努力義務化」

「インターバル制度」とは、退社と翌日の出社までの間に一定の休息時間を設ける制度です。法案では、制度の導入を努力義務としました。

これに対しては、努力義務では不十分との批判があります。施行予定日は、2019年4月1日です。

「高度プロフェッショナル制度」

働いた「時間」ではなく「成果」で評価ための新たな制度で、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外します。一方で、労働者の健康確保のため、年間104日以上の休日を確保することなどが義務づけられます。

対象となる「高収入の一部専門職」は、年収1075万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントなどが想定されていて、労働者の3%未満となる見通しです。正式には、法案が成立した後、労使双方が参加する国の労働政策審議会で議論し、厚生労働省が省令で定めます。

この制度のもとでは、残業や休日出勤をしても割増賃金が支払われなくなるため、野党などは「残業代ゼロ法案」などと批判しています。
施行予定日は、2019年4月1日です。

これまでの経緯

第1次安倍政権時代から模索、10年ごしで実現へ

労働時間の規制緩和策について、2007年の第1次安倍政権は「ホワイトカラー・エグゼンプション」という名前で導入を目指しましたが、長時間労働を招くとの批判も強く、国会への提出を断念しました。

政権に返り咲いた後、2015年には「脱時間給制度」の創設を柱とする労働基準法改正案を閣議決定しました。しかし野党の反対もあり国会で審議入りできず、廃案となりました。

その後、2016年10月に広告代理店「電通」の新入社員が過労自殺したことをきっかけに長時間労働の是正を求める世論が高まったことも背景に、2017年3月、安倍首相と経団連の会長、連合の会長による「政労使会談」で、残業時間の上限規制について合意します。そして同月、安倍首相が議長を務める「働き方改革実現会議」が「実行計画」を取りまとめました。

法案から「裁量労働制の対象拡大」を全面削除

安倍政権は当初、実際に働いた時間にかかわらず一定時間働いたとみなす「裁量労働制」について、対象業務を広げる内容も「働き方改革関連法案」に盛り込む方針でした。

この論点をめぐり、安倍首相は2018年1月29日に国会で「裁量労働制の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と答弁しました。

しかし、この答弁の根拠となったデータについて、単純に比較できないものだったことやデータそのものにも多くの異常値が見つかります。

安倍首相はこの答弁を撤回する事態となり、法案から「裁量労働制の対象拡大」については全面削除を余儀なくされました。

「高度プロフェッショナル制度」めぐる賛否両論

反対派の主な主張

  • 長時間労働を助長しかねず、労働時間の規制を外すべきではない
  • 企業に義務づけられる健康確保策は不十分
  • 対象となる職種や年収要件が引き下げられるおそれ
  • 労働者は立場が弱く、実際には拒否できないのではないか

賛成派の主な主張

  • 時間ではなく成果で評価する、多様で柔軟な働き方を実現する
  • 企業には労働者の健康確保策が義務づけられる
  • 対象となるのは高収入の一部の専門職だけ
  • 適用には労働者本人の同意が必要で、離脱することも可能

新聞各社の主張(抜粋)

朝日新聞(2018年4月7日社説慎重

緊急性の高い政策と抱き合わせで拙速に進めることは許されない(略)政府・与党に再考を求める

毎日新聞(2018年4月7日社説慎重

規制強化と緩和という矛盾するものを一つの法案にまとめるのは無理がある

日経新聞(2018年4月7日社説賛成

時代の要請である。対象者を一部の専門職に限っているが、今後広げるべきだ

読売新聞(2018年4月7日社説賛成

仕事の多様化に対応し、効率的な働き方を促す狙いは、時宜にかなっている

産経新聞(2018年4月16日社説賛成

長時間労働で低下している生産性を高めるためにも時代に適した制度といえるだろう

社説の読み比べ

朝日新聞と毎日新聞は、「時間外労働の上限規制」と「同一労働同一賃金」については重要性を認める一方で、「高度プロフェッショナル制度」については「長時間労働を助長しかねないと、多くの懸念や不安の声がある制度だ(朝日)」「野党側は(略)反対しており、国会審議の紛糾は避けられないだろう(毎日)」と否定的で、「高度プロフェッショナル制度」を法案から切り離すべきという立場です。

一方で、日経・読売・産経は、「高度プロフェッショナル制度」について「時代の要請(日経)」「時宜にかなっている(読売)」「時代に適した制度(産経)」と評価しています。
特に日経は、「経済のソフト化・サービス化が進み、成果が労働時間に比例しない仕事は急増している。成果重視を前面に出した高度プロフェッショナル制度は時代の要請である。対象者を一部の専門職に限っているが、今後広げるべきだ」として、制度の対象拡大を訴えています。

※産経新聞が2018年4月16日に社説で取り上げたことを受けて、一部更新しました(最終更新:2018年5月18日)。