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「加計学園」来年4月開学へ

学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐって、文部科学省の大学設置審議会は11月10日(金)来年4月の開学を認める結論をまとめ、林文部科学大臣に答申しました。当初は今年8月に結論を出す予定でしたが、計画が不十分だとして認可の判断を保留していました。これで、加計学園の獣医学部は認可される見通しです。
朝日・毎日・日経・読売の4紙はさっそく社説で取り上げています。

朝日新聞「これで落着とはならぬ」

朝日新聞は11月11日の社説(以下に転載)で、

来春開学の見通しになったからといって、あの「総理のご意向」をめぐる疑いが晴れたことには、まったくならない

首相も理事長も、逃げ回っても問題は消えてなくならない。「どうせ国民は忘れる」と高をくくってもらっては、困る

などと批判。安倍首相や加計学園の理事長は説明すべきだと指摘しています。

毎日新聞「説明もしないまま開学か」

毎日新聞は11月11日の社説(以下に転載)で、

行政の公平さがゆがめられたのではないか。その疑問に答えぬままの結論である

安倍首相は衆院選の公示前に「また国会があるのでその場で説明させていただきたい」と述べている。ならば関係省庁に調査を命じ、学園理事長は国会証言を行うべきだ

などと批判。朝日新聞と同様、安倍首相や加計学園の理事長は説明すべきとの立場です。

読売新聞「教育の質確保が最優先課題だ」

読売新聞は11月11日の社説(以下に転載)で、

利害関係や政治的圧力を排した専門家による機関の審査をパスした事実は重い

四国は獣医学部の空白地だ。鳥インフルエンザや口蹄疫こうていえきなどの対応に当たる公務員獣医師の確保は急務だと言える

などと今回の答申を肯定的にとらえた上で、

野党は、特別国会でもこの問題の経緯を追及する構えだが、建設的議論になるのだろうか

とこの問題をめぐる野党の追及を疑問視。

問題なのは、特区選定に関する省庁間調整や政府関係者と学園側の接触の記録が適切に保存されていないことだ

政策決定過程を積極的に公開し、行政への信頼を高める必要がある

と指摘しています。

日経新聞「特区の再起動を」

日経新聞は11月12日の社説(以下に転載)で、

これを機に、既得権者と官僚組織が死守しようとする岩盤規制を打破すべく、国家戦略特区を再起動させるべきだ。首相は臆せず態勢を整えてほしい

獣医学部をめぐっては、法的根拠なしに新設を阻んできた文科省の行政指導にこそ問題がある。教育と研究の質を高め、食の安全や感染症対策で消費者に恩恵をゆき渡らせるには、意欲ある大学経営者に広く参入を認めるべきだ

などと訴えています。また、

首相と関係官僚には特別国会で説明を尽くす責務がある

この問題があぶり出した行政文書の管理・保存ルールでは、役所の恣意が入る余地をなくすよう行政府にあまねく求めたい

などと指摘しています。

社説転載

以下に4新聞の社説を転載します。

朝日新聞 「加計」開学へ これで落着とはならぬ(2017年11月11日)

 加計学園が愛媛県今治市に計画している獣医学部について、文部科学省の大学設置審が新設を認める答申をした。

 はっきりさせておきたい。

 来春開学の見通しになったからといって、あの「総理のご意向」をめぐる疑いが晴れたことには、まったくならない。

 問われてきたのは、設置審の審査をうける者を決めるまでのプロセスが、公平・公正だったかどうかということだ。

 国家戦略特区の制度を使って獣医学部を新設する、その事業主体に加計学園が選ばれるにあたり、首相や周辺の意向は働かなかったか。逸脱や恣意(しい)が入りこむことはなかったか――。

 こうした疑念に白黒をつけるのは、設置審の役割ではない。教員の年齢構成や経歴、科目の体系などを点検し、期待される教育・研究ができるかを専門家の目で判断するのが仕事だ。見る視点や材料が違うのだから、特区選定の正当性を裏づけるものにならないのは当然だ。

 むしろ、きのう公表された審査資料によって、見過ごせない事実が新たに浮上した。

 設置審は今年5月の段階で、加計学園の計画について、抜本的な見直しが必要だとする「警告」を突きつけていた。修正できなければ不認可になる問題点を七つも列挙していた。

 政府は国会などで「加計の計画は、競合する他の大学よりも熟度が高いと判断した」と説明してきた。設置審の見解とのあまりの乖離(かいり)に驚く。

 七つの指摘の中には「ライフサイエンスなど新分野の人材需要の動向が不明」なことも含まれる。これは、2年前の閣議決定に基づき、設置審にかける前に、特区の審査段階でクリアしておかねばならない条件だったはずだ。設置審はまた、四国地方における獣医師の需要見通しの不備にも言及していた。

 これらの重要な点を積み残したまま、なぜ加計学園は特区の認定を受けられたのか。政府に「丁寧な説明」を強く求める。

 安倍首相は先の衆院選の際、街頭演説では加計問題にほとんど触れず、「国会があるのでその場で説明させてほしい」と述べていた。この特別国会で約束を果たす義務がある。

 問題の発覚から半年。疑問は解消されず、むしろ膨らむばかりなのに、学園の加計孝太郎理事長は公の場で一度も説明していない。野党が国会への招致を求めるのはもっともである。

 首相も理事長も、逃げ回っても問題は消えてなくならない。「どうせ国民は忘れる」と高をくくってもらっては、困る。

毎日新聞 「加計」獣医学部が認可へ 説明もしないまま開学か(2017年11月11日)

 行政の公平さがゆがめられたのではないか。その疑問に答えぬままの結論である。

 文部科学省の審議会が「加計学園」の獣医学部設置を認める答申を出した。林芳正文科相は近く認可し、来年4月に開設される見通しだ。

 審議会では獣医学部新設にいくつかの課題が指摘され、5月には改善を求める異例の「警告」まで出されたという。とはいえ、教育上必要な条件が整備されたのなら、獣医学部の設置に異を唱えるつもりはない。

 だが、問題は加計学園に国家戦略特区制度を通じて、候補が絞られた過程にある。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学園の獣医学部設置を巡る手続きに関する疑惑である。

 文科省の担当者が内閣府幹部から「総理のご意向」などと、学部の早期開学を求められたことを記録した文書が明らかになっている。

 しかし、内閣府側は文科省との面談記録を残していないとした上で、「記憶にない」などと、文書の内容を否定している。官僚らの証言からは、疑念が拭えたとは言えない。

 また、愛媛県今治市が特区に手を挙げる2カ月前の2015年4月、当時の首相秘書官は同市職員や学園関係者と官邸で面会したとされる。だが元秘書官は「会った覚えはない」と否定し、なぜか官邸に面会記録も残っていないという。

 7月に開かれた閉会中審査で、加戸守行・前愛媛県知事は、長年獣医学部新設が認められなかったことを指摘し「愛媛県にとっては12年間、加計ありきだった」と発言した。

 残念なのは、産経新聞など一部のメディアが加戸氏の発言を取り上げて、「加計」疑惑を報道するメディアを一方的に攻撃し、安倍首相もそれに便乗していることだ。

 加戸氏の発言は、獣医学部を求めてきた地元の論理だ。だが、制度としての特区認定と、加計学園が事業主体になることは別であるべきなのに、それが一体として認められたのではないかということが疑惑の核心だ。加戸氏の発言はその反証にはなっていない。

 安倍首相は衆院選の公示前に「また国会があるのでその場で説明させていただきたい」と述べている。

 ならば関係省庁に調査を命じ、学園理事長は国会証言を行うべきだ。

日経新聞 「加計」乗り越え特区の再起動を(2017年11月12日)

 学校法人加計(かけ)学園獣医学部(愛媛県今治市)の来春の開学が決まった。文部科学相の諮問機関、大学設置・学校法人審議会が設置を認める答申を出し、林芳正文科相は近く認可する。獣医学部の新設はじつに52年ぶりだ。

 学園理事長が安倍晋三首相と親しいため、この問題は特異な経過をたどった。これを機に、既得権者と官僚組織が死守しようとする岩盤規制を打破すべく、国家戦略特区を再起動させるべきだ。首相は臆せず態勢を整えてほしい。

 特区で獣医学部新設を認める条件として内閣府は「既存大学では対応が難しい」など4項目を挙げた。設置審はこの4条件とは別に教育課程や教授陣の質・数を確認し、問題はないと結論づけた。

 文科省当局はこれまで、加計学園の計画は4条件を満たしていないと主張し、新設に後ろ向きだった。また早期開学を認めるよう官邸幹部から圧力をかけられたと前文科次官が明らかにし、国会で野党を巻きこんだ論争に発展した。

 国会審議をみる限り、理事長が開学に便宜を図るよう首相に求めた事実は確認できない。だが首相側の説明もまだ十分ではない。元秘書官は今治市の担当者と官邸で会ったか否か記憶にないと繰り返した。首相と関係官僚には特別国会で説明を尽くす責務がある。

 この問題があぶり出した行政文書の管理・保存ルールでは、役所の恣意が入る余地をなくすよう行政府にあまねく求めたい。

 獣医学部をめぐっては、法的根拠なしに新設を阻んできた文科省の行政指導にこそ問題がある。教育と研究の質を高め、食の安全や感染症対策で消費者に恩恵をゆき渡らせるには、意欲ある大学経営者に広く参入を認めるべきだ。

 同時に、水準を満たさない既存学部は撤退させるべくルールを整えるのが同省本来の役割である。

 教育分野に限らず保育、介護、法曹、雇用、医療などの官製市場には既得権者が守りたい岩盤規制がある。消費者主権を貫くために戦略特区が果たす役割は大きい。

読売新聞 米国抜きTPP 保護主義圧力に先手を打った(2017年11月11日)

 米国で高まる保護主義に「待った」をかける重要な一手である。各国と結束を深め、世界の自由貿易推進の核として着実に発効させたい。

 米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11か国が、新たな協定に大筋合意した。年明けにも署名を果たし、2019年をめどに発効を目指す。

 TPPは関税の削減・撤廃のほか、知的財産権など広範な分野に及ぶ。次代の世界標準と目される高水準の貿易ルールだ。成長著しいアジア太平洋地域で、協定が再始動する意義は極めて大きい。

 日中韓印など16か国が交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をはじめ、他の貿易枠組みにも有力な指針となろう。

 米トランプ政権は、偏狭な自国第一主義を振りかざす。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉では、極端な米国優遇を求める。米韓自由貿易協定(FTA)は、韓国に再交渉を無理強いした。

 日本に対しても、対日貿易赤字の削減を狙い、日米FTAの交渉開始に強い関心を示している。

 TPPは日本にとって、米国の圧力をかわす安全弁となり得る。米国市場以外への進出も視野に入れて交渉したTPP以上には、対米のみの交渉で譲歩できない、という主張が成り立つからだ。

 新協定は、元の協定で米国の主張が強かった一部項目を「凍結」する一方、米国が復帰すれば「解凍」する仕組みも残した。

 TPPが再始動するからには、米国が日本に2国間交渉を迫ることがあれば、まずは米国にTPP復帰を促すのが筋である。

 新協定に向けた11か国の協議では、当初、米離脱による凍結項目の候補が50程度にも上った。大筋合意では20項目に絞り込み、意欲的な協定内容の維持に努めた。

 11か国中、最大の経済大国である日本は、高級事務レベル会合を再三主催するなど、強い指導力を発揮した。それが合意形成を促したのは間違いない。

 ただ、最終局面でカナダが難色を示し、予定した首脳会合が流れる事態も起きた。日本は今後も各国と丁寧に意思疎通を図り、協定発効まで足並みが乱れぬよう意を尽くしてもらいたい。

 11か国は今後、新協定の国内手続きに進む。日本は昨年、元の協定について国会の承認を得た。新協定の関連法案について再び国会審議が必要になる見通しだ。

 政府には、米国抜きの協定内容と意義を丁寧に説明し、国民の理解を広げる努力が欠かせない。