一定の成果はもたらしたが、シナリオ通りには進まず
自民党は選挙公約で、次のような経済指標を並べてアベノミクスの成果をアピールしています。
- 国民総所得 36兆円増加
- 就業者数 110万人増加
- 有効求人倍率 24年ぶりの高水準
- 若者の就職率 過去最高
- 給与 3年連続で2%水準の賃上げ
- 企業収益 過去最高
- 税収 21兆円増加
- 企業の倒産件数 25年ぶりの低水準
- 外国人旅行者数 過去最高(約2,000万人)
一方で、民進党は選挙公約で、以下のような経済指標でアベノミクスは失敗だと訴えています。
- 実質成長率の低下:旧民主党政権下=年平均1.7% 現政権=年平均0.8%
- 実質賃金の低下:2010年(旧民主党政権)を100とすると、2015年は94.6(現政権)
- 非正規雇用が増加
肯定派・否定派それぞれの立場が論理武装として様々な指標を引用しており、成功とも失敗とも言い切れない面があります。ただ、安倍政権が発足する前と比べれば、当時の過度な円高が是正され、それによって企業収益も向上し、税収の増加や日経平均株価の上昇がもたらされたことなどから、少なくとも「アベノミクスは一定の成果をもたらした」と評価することはできそうです。
しかし、当初目指した「2年で2%の物価上昇」は達成のメドが立たず、経済成長率も低空飛行のままです。原油安や世界経済の動向などの影響もあったとはいえ、アベノミクスが当初描いたシナリオ通りに進んでいないことも事実です。また、景気が良くなったという国民の実感はまだ広がりを見せていません。したがって、肯定派は「道半ば」と表現し、否定派は「失敗」と追及する構図となっています。
「分配」重視の姿勢は与野党とも共通
実は、アベノミクスの肯定派も否定派も、公約で掲げる経済政策の多くは共通しています。以下がその代表例です。
- 同一労働同一賃金
- 保育士の待遇改善
- 介護士の待遇改善
- 給付型奨学金の創設
- 最低賃金の引き上げ
つまり、正規社員と非正規社員の格差の是正や、保育や介護など社会保障の充実など、「分配」型の政策を充実させるという方向では一致しているのです。
野党が訴える「大企業や富裕層の課税強化」
では、与野党が公約で掲げる経済政策でどこが具体的に異なるのでしょうか。違いが際立つのは、野党が「大企業や富裕層への課税強化」を訴えていることです。
大企業、富裕層に公正で応分の税負担を求めます(民進党・選挙公約)
大企業への優遇税制をただし、中堅・中小企業並みの税負担を求めます(共産党・選挙公約)
富裕層への優遇税制をただし、適正な課税を行います(共産党・選挙公約)
つまり、アベノミクス否定派は「取れるところから取る」ことによって所得の再分配を強化すべきと主張しているのです。これに対してアベノミクス肯定派からは、
「行き過ぎた所得再分配は、経済や社会の活力を失わせる」(20150217読売新聞・社説)
との反論があります。
「分配と成長」か、「成長と分配」か?
選挙公約で自民党は「成長と分配の好循環」を掲げ、民進党は「分配と成長を両立させる経済政策への転換」を掲げています。「成長」と「分配」という2つのキーワードは共通している一方で、「成長」が先に来る自民党と、「分配」が先に来る民進党、という所にニュアンスの違いがにじみでています。
(※写真提供:Drop of Light / Shutterstock.com)
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