東日本大震災の前後で原発政策はどう変わったの?
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震災前のエネルギー政策では、原発の利用を拡大していく方針でした。
しかし東京電力・福島第一原発の事故により「脱原発」を求める声が高まり、
野田政権は「2030年代の原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー戦略を掲げました。
ただ、原子力協定を結ぶアメリカや、再処理施設のある青森県などの反発もあり、
エネルギー戦略は「参考文書」扱いとされ、あいまいな位置づけにとどまりました。
原発事故を経て高まった原発政策の見直し機運
東日本大震災の前年、2010年に政府がまとめた「エネルギー基本計画」では、
原子力は、供給安定性・環境適合性・経済効率性を同時に満たす基幹エネルギーである。安全の確保を大前提として、国民の理解と信頼を得つつ、新増設の推進、設備利用率の向上等により、積極的な利用拡大を図る。
と位置づけられていました。
しかし2011年3月に発生した東京電力・福島第一原発の事故によって、
脱原発を求める声が高まります。
原子力発電を今後どれくらい減らすのか、あるいは維持・活用するのかについて、
民主党政権下のエネルギー・環境会議が2012年6月29日に提示した
「エネルギー・環境に関する選択肢」では、3つの選択肢が示されました。
これは、震災前の時点で約26%だった原発の比率を、
2030年に、0%、15%、20~25%のいずれを目指すかという選択肢です。
いずれも、
- 再生可能エネルギーと省エネルギーを最大限進める
- 原発依存度・化石燃料依存度を減らす
- エネルギー安全保障を今よりも改善する
- 温室効果ガスの排出量を削減する
という方向性は共通している一方で、
シナリオ間で大きく異なるのは、どの程度の時間をかけてどこまで原発依存度を下げて いくか、どの程度のコストをかけて構造転換を図っていくかという点である。
(上記「エネルギー・環境に関する選択肢」より)
とされ、具体的に大きく異なるポイントは、
- 経済負担:0%シナリオが最も大きな経済負担が必要になる
- 原発の新設:20~25%シナリオでは原発の新設・更新が必要になる
- 使用済み核燃料:0%シナリオでは直接処分へと政策転換。他のシナリオでは、再処理・直接処分の両方がありうる
という内容でした。
国民的議論の結果、早期の原発ゼロを望む民意が示された
3つのシナリオをもとに、2012年8月「討論型世論調査」が実施されました。
電力会社関係者が除外された一般人が参加したこの調査では、
参加者同士の討論や専門家への質問などを通じて、熟慮した意見の推移を把握しました。
「安全の確保」「エネルギーの安定供給」「地球温暖化防止」「コスト」という4つの判断基準の何を重視し、どのシナリオを支持するのかが調査の焦点となりました。
そして、調査の結果、参加者は「安全性」を最も重視し、「0%シナリオ」が支持されました。
討論型世論調査の報告書(2012年8月27日)は、以下のようにまとめています。
国民は省エネをもっと行い、また、ライフスタイルも変え、コストが高くなっても再生エネルギーを推進し、国民も発想の転換をするということを引き受けると読むべきであろう。(討論型世論調査・調査報告書より)
報道機関などによる他の世論調査の結果と同様に、
時間とコストをかけて行った「討論型世論調査」でも、
早期の原発ゼロを望む民意が示される結果となったのです。
野田政権「2030年代の原発稼働ゼロ」戦略を打ち出すもあいまい姿勢
この討論型世論調査の結果を受けて、2012年9月14日に野田政権は、
「2030年代の原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー戦略を打ち出します。
実現のためにあらゆる政策資源を投入するとし、以下の3原則を掲げました。
- 40年運転制限制を厳格に適用する
- 原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする
- 原発の新設・増設は行わない
しかし、この方針を打ち出したすぐ後の9月19日に、
野田政権は以下の文言を閣議決定したのです。
今後のエネルギー・環境政策については、「革新的エネルギー・環境戦略」(平成 24年9月14日エネルギー・環境会議決定)を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。
(2012年9月19日の閣議決定より)
この表現では、「2030年代の原発ゼロ」を掲げたエネルギー戦略を、
政権として採用したのか、参考扱いにしかすぎないのか、
どちらとも読める玉虫色の閣議決定だと批判されました。
野田政権がはっきりと原発ゼロを打ち出せなかった背景には、
原子力協定を結ぶアメリカや、再処理施設がある青森県の反発などがあったと指摘されています。
このように、野田政権による原発稼働ゼロ目標はあいまいなものでした。
そして、あいまいながらも原発ゼロを目指したエネルギー政策も、
政権交代を経て軌道修正されていきます。
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