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具体的にはどんな事例が議論されたの?

集団的自衛権の行使容認を訴える安倍首相が強調したのは、日本人を乗せたアメリカ艦船が攻撃された時に自衛隊が反撃する事例でした。この事例が、最も国民の理解を得やすいと判断したものとみられます。与党協議の議論で示された事例のうち、集団的自衛権に関するものは8つです。

自民・公明の与党協議に政府が示した具体的事例は、以下の15事例+参考1事例です。
参考:公明党HP

なお、テーマの右側に「●安保法制懇2008」「●安保法制懇2014」と記したものは、安保法制懇がそれぞれ2008年および2014年の報告書で挙げた事例です。

「集団的自衛権」に関する8事例

  • 邦人輸送中のアメリカ輸送艦の防護
  • 武力攻撃を受けている米艦防護 ●安保法制懇2008
  • 周辺事態等における強制的な船舶検査 ●安保法制懇2014
  • 米国に向け日本上空を横切る弾道ミサイル迎撃 ●安保法制懇2008
  • 弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
  • アメリカ本土が武力攻撃を受け、日本周辺で作戦を行う米艦防護 ●安保法制懇2014
  • 国際的な機雷掃海活動への参加 ●安保法制懇2014
  • 民間船舶の国際共同護衛
  • 「PKOを含む国際協力等」に関する4事例

  • 侵略行為に対抗するための国際協力としての支援 ●安保法制懇2014
  • 国際的な平和活動における武器使用、いわゆる「駆けつけ警護」 ●安保法制懇2008
  • 任務遂行のための武器使用
  • 領域国の同意に基づく邦人救出
  • 「グレーゾーン事態」に関する3事例と参考1事例

  • 離島等における不法行為への対処 ●安保法制懇2014
  • 公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
  • 平時における弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
  • (参考事例)領海内で潜没航行する外国の軍用潜水艦への対処 ●安保法制懇2014
  • 以下、3つの事例について紹介します。

    邦人輸送中のアメリカ輸送艦の防護

    日本人を乗せたアメリカの輸送艦が攻撃された際に、自衛隊がこの船を集団的自衛権を行使して防護する、という事例です。2014年5月15日、安保法制懇の報告書提出を受けた会見で、安倍首相は以下のように述べました。

    今や海外に住む日本人は150万人、さらに年間1,800万人の日本人が海外に出かけていく時代です。その場所で突然紛争が起こることも考えられます。そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない、これが憲法の現在の解釈です。
    (中略)
    再度申し上げますが、まさに紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さんや、おじいさんやおばあさん、子供たちかもしれない。彼らが乗っている米国の船を今、私たちは守ることができない。

    日本人の乗るアメリカ艦船を守るという、多くの人の理解を得やすい事例であり、だからこそ安倍首相は会見でこのケースを強調したとみられます。
    集団的自衛権の行使容認には反対の立場の毎日新聞も、この事例については当然対応すべきと、社説で以下のように明言しています。

    私たちは具体的事例のようなケースに対応しなくていいと言っているのではない。
    安倍晋三首相が5月15日の記者会見でパネルで説明した「邦人輸送中の米輸送艦の防護」などは、現実味がどれだけあるかは別にして、そういう事態が生じれば当然やるべきだ。だが、そのために集団的自衛権の行使が必要だという政府・自民党の主張をうのみにするわけにはいかない。個別的自衛権か武器等防護で対応できると考える。
    (20140618毎日新聞社説)

    ただし、この事例は従来の安保法制懇で議論されてこなかったもので、国民の広い理解を得るために持ち出された事例と考えることもできます。

    武力攻撃を受けている米艦防護 ●安保法制懇2008

    安保法制懇が2008年報告書で「公海における米艦防護」として問題提起した事例です。
    公海上で共同訓練などで自衛隊の艦船が米軍の艦船と近くで行動している場合、米軍の艦船が攻撃された時に自衛隊が何もしなくていいのか、というものです。

    このケースについて、「個別的自衛権」の拡大で対応できるという主張もありますが、2008年および2014年に出された安保法制懇の報告書では、以下のように反論しています。

    自衛艦が攻撃されていないにもかかわらず、個別的自衛権の適用を拡大して米艦を防護するということにつ いては、国際法に適合した説明が困難であり、また、政策目標の達成も中途半端なものとなる
    2008年6月に提出された報告書から抜粋

    本来は集団的自衛権の行使の対象となるべき事例について、個別的自衛権や警察 権を我が国独自の考え方で「拡張」して説明することは、国際法違反のおそれがある。 例えば、公海上で日米の艦船が共同行動をしている際に、自衛艦が攻撃されていないに もかかわらず個別的自衛権の行使として米艦を防護した場合には、国際連合憲章第 51 条に基づき我が国がとった措置につき国連安全保障理事会に報告する義務が生じるが、 「我が国に対して武力攻撃が発生した」という事実がないにもかかわらず個別的自衛権 の行使として報告すれば、国際連合憲章違反との批判を受けるおそれがある。また、各 国が独自に個別的自衛権の「拡張」を主張すれば、国際法に基づかない各国独自の「正 義」が横行することとなり、これは実質的にも危険な考えである
    2014年5月15日、新たな報告書から抜粋

    国際的な機雷掃海活動への参加 ●安保法制懇2014

    念頭にあるのは、日本が輸入する原油の大半が通る「ホルムズ海峡」での機雷除去活動です。
    核開発問題をめぐりアメリカなどと対立するイランが、中東・ペルシャ湾にあるこの海峡を封鎖する可能性が懸念されているのです。
    安保法制懇の報告書では以下のように記載されています。

    今後、我が国が輸入する原油の大部分が通過する重要な海峡等で武力攻撃が発生し、攻撃国が敷設した機雷で海上交通路が封鎖されれば、我が国への原油供給の大部分が止まる。これが放置されれば、我が国の経済及び国民生活に死活的な影響があり、我が国の存立に影響を与えることになる。
    武力紛争の状況に応じて各国が共同して掃海活動を行うことになるであろうが、現行の憲法解釈では、我が国は停戦協定が正式に署名される等により機雷が「遺棄機雷」と評価されるようになるまで掃海活動に参加できない。そのような現状は改める必要がある。
    2014年5月15日、新たな報告書から抜粋

    実はこのケースで「集団的自衛権」を行使して機雷除去活動に参加すべきと考えた場合、「集団安全保障」としての活動を認めないと、次のような矛盾が生じるおそれがあります。

    仮に、自衛隊が「集団的自衛権」を行使して活動を始めた後に「国連決議」が出されると、活動の位置づけが「集団安全保障」に切り替わるため、自衛隊は活動を中止しなくてはなりません。

    本来は国連決議によって国際社会の「お墨付きを得た」はずの活動が、憲法解釈で「集団安全保障」を認めないとなると、活動できなくなるのです。

    それではおかしいという意見から、「集団安全保障」についても認めるべきであるという主張が浮上しました。結局、閣議決定では「集団安全保障」については明記されず、あいまいな扱いとなっています。