「安保法制懇」とは?報告書の内容は?
正式名称は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」です。
安倍首相が設置した私的な諮問機関、つまり有識者の集まりで、法的根拠はありません。
第1次安倍政権での議論
まずは2007年5月、第1次安倍内閣の時に設置され、安倍首相が提示した4ケースについて議論を行いました。
ケース1 公海におけるアメリカ軍の艦船の防護 ケース2 米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃 ケース3 国際的な平和活動における武器使用「駆けつけ警護」 ケース4 同じ国連PKO等に参加している他国活動に対する後方支援
2008年6月に提出された報告書では、自衛隊の活動が認められない上記4つのケースについて、憲法解釈を変更することによって、いずれにも対応可能にすべきだと提言しました。
しかし、第1次安倍政権は約1年という短命で終わったため、この報告書が出された時には安倍氏は首相を退き福田政権となっていました。
その後の麻生政権や政権交代後の鳩山、菅、野田政権の下でも、安全保障をめぐる議論は行われてきましたが、優先課題とされませんでした。
第2次安倍政権での議論
そして、第2次安倍政権が発足。2013年2月に安保法制懇が再開され、2014年5月15日、新たな報告書が提出されました。報告書では、
我が国を取り巻く安全保障環境の変化 に鑑みれば、例えば以下のような事例において我が国が対応を迫られる場合があり得るが、従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができず、こうした事例に際して我が国が具体的な行動を採ることを可能とするあるべき憲法解釈や法制度を考える必要があるという問題意識が共有された。
とし、2008年報告書での上記4ケースに加えて、新たに以下6つのケースが示されています。
ケース1 近隣有事における船舶検査、米艦等への攻撃排除 ケース2 米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援 ケース3 我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域における機雷除去 ケース4 国際秩序の維持を目的とした国連の決定に基づく活動への参加 ケース5 日本領海で潜没航行する外国潜水艦が徘徊する場合の対応 ケース6 離島等において武装集団が不法行為を行う場合の対応
そして報告書は、以下の2つの考え方を示しつつ、どちらにせよ集団的自衛権の行使を認めるようにすべきと提言しました。
安保法制懇の提言①芦田修正論の立場からの解釈変更
報告書が強く提言したのは、「芦田修正論」に基づく憲法解釈です。集団的自衛権も集団安全保障についても憲法上の制約はない、と主張しています。
「芦田修正論」とは
憲法第9条は、
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
と規定しています。
「芦田修正論」は、帝国議会衆議院・帝国憲法改正案委員会の芦田均委員長が2項の冒頭に書き加えた、「前項の目的を達するため、」という文言に注目します。
2項に「前項の目的を達するため、」が追加されたことによって、放棄したのは1項で禁じた「国際紛争を解決する手段」としての戦争であると解釈。
そして、自衛や国連活動への参加などは「国際紛争を解決する手段」ではないとして、憲法上の制約はないと考えるのです。
安保法制懇はこの「芦田修正論」の立場から、
憲法第9条第1項の規定(「日本国民は、正義と秩序を 基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」)は、我が国が当事国である国際紛争の解決のために武力による威嚇又は武力の行使を行うことを禁止したものと解すべきであり、自衛のための武力の行使は禁じられておらず、また国連PKO等や集団安全保障措置への参加といった国際法上合法的な活動への憲法上の制約はないと解すべきである。
集団的自衛権の行使だけでなく、集団安全保障への参加にも制約はないと解釈するよう提言しています。
安保法制懇の提言②これまでの政府解釈の延長上の解釈変更
報告書は一方で、芦田修正論を採用せずに従来の政府の考え方に立ったとしても、集団的自衛権の行使を認めるべきだと訴えています。
政府のこれまでの見解である、「(自衛のための)措置は、必要最小限度の範囲 にとどまるべき」という解釈に立ったとしても、その「必要最小限度」の中に個別的自衛権は含まれるが集団的自衛権は含まれないとしてきた政府の憲法解釈は、「必要最小限度」について抽象的な法理だけで形式的に線を引こうとした点で適当ではない。事実として、今日の日本の安全が個別的自衛権の行使だけで確保されるとは考え難い。したがって、「必要最小限度」の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈して、集団的自衛権の行使を認めるべきである。
このように、従来の政府解釈で行使を認めてきた「必要最小限度の自衛措置」の中に、集団的自衛権を行使するケースも含まれると解釈すべき、提言しています。
安倍首相、会見で安保法制懇の提言②を支持
報告書が提出された2014年5月15日、安倍首相は記者会見で次のように述べ、
2つ目の提言について「今後さらに研究を進めていきたい」と述べました。
今回の報告書では、二つの異なる考え方を示していただきました。
一つは、個別的か、集団的かを問わず、自衛のための武力の行使は禁じられていない、また、国連の集団安全保障措置への参加といった国際法上、合法な活動には憲法上の制約はないとするものです。
しかし、これはこれまでの政府の憲法解釈とは論理的に整合しない。私は憲法がこうした活動の全てを許しているとは考えません。したがって、この考え方、いわゆる芦田修正論は政府として採用できません。自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してありません。もう一つの考え方は、我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方です。生命、自由、幸福追求に対する国民の権利を政府は最大限尊重しなければならない。憲法前文、そして憲法13条の趣旨を踏まえれば、自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることは禁じられていない。そのための必要最小限度の武力の行使は許容される、こうした従来の政府の基本的な立場を踏まえた考え方です。
政府としてはこの考え方について、今後さらに研究を進めていきたいと思います。
このうに、芦田修正論はこれまでの政府解釈と整合せず採用しないとし、「従来の政府の基本的な立場を踏まえた考え方」について研究をすすめるとしました。そして「今後、内閣法制局の意見もふまえつつ、政府としての検討を進めるとともに、与党協議に入りたい」と述べ、議論の舞台は、自民・公明の与党協議へとうつりました。
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