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安倍首相、核兵器禁止条約に「参加しない立場に変わりない」

2018年8月6日、安倍首相は、広島市で開かれた平和記念式典に出席したあとの記者会見で、国連で採択された核兵器禁止条約について「条約が目指す核廃絶というゴールはわが国も共有しているが、わが国の考え方とアプローチを異にしていることから、参加しないという立場に変わりはない」と述べたうえで、「核保有国と非保有国の橋渡し役として国際社会の取り組みをリードし、2020年のNPT(=核拡散防止条約)の運用検討会議に向けた国際的な機運を高めていきたい」との考えを示しました。
一方、広島県被団協など7つの被爆者団体の代表らは、平和記念式典のあと安倍首相と面会し、核兵器禁止条約への参加を求めました。
また、立憲民主党の枝野代表は記者団に対し、「日本も含め多くの核保有国が核兵器禁止条約に参加できる状況を作るために、政府は唯一の被爆国としてさらに努力をしなければならないが、残念ながらその努力が感じられない」と政府の対応を批判しました。

これまでの経緯

日本政府、核兵器禁止条約への不参加を表明

2017年3月28日、核兵器を「非人道的」として禁止する条約の制定を目指す交渉が国連で始まりました。100以上の非核保有国が参加する一方で、核兵器保有国や「核の傘」に守られている日本は交渉に参加しませんでした。

菅官房長官は記者会見で、「交渉には5つの核兵器国がいずれも出席していない。このような環境では核兵器国と非核兵器国の対立をさらに深め、かえって核兵器のない世界を遠ざけるものになると判断した」と述べました。
岸田外務大臣は記者会見で、「核兵器国と非核兵器国の対立を一層深めるという意味で逆効果にもなりかねない」「核兵器国と非核兵器国がともに参加する枠組みの中でこれからも辛抱強く努力することこそ現実的で、核兵器のない世界に向けての最短の道であると信じている」などと述べました。

これに対し、長崎市の田上市長は「被爆地としては到底理解できないし、深い失望を感じている」と述べたほか、日本原水爆被害者団体協議会の箕牧代表理事は会見で、「怒り心頭でがっかりした」「交渉に参加し、唯一の戦争被爆国の政府としてふさわしい役割を果たしてほしい」などと述べ政府の対応を批判しました。

核兵器禁止条約、国連の交渉会議で採択

2017年7月8日、核兵器の開発や保有、使用などを禁止する初めての国際条約である「核兵器禁止条約」が国連の交渉会議で賛成多数で採択されました。条約には100を超える国が参加する見通しですが、核兵器保有国や、その「核の傘」に守られる日本などは参加しません。
核保有国のアメリカ・イギリス・フランスは共同で声明を出し、「国際的な安全保障の環境を無視したイニシアチブだ。条約は北朝鮮による核開発の深刻な脅威に対してなんの解決策も示していない」などとして、条約を批判しました。

賛否両論(核兵器禁止条約に参加しない日本政府への賛否)

政府を批判する意見

  • 唯一の被爆国として、核兵器の廃絶に向けた国際社会の取り組みを主導すべき

政府への賛成意見

  • 日本に対する核の脅威がある限り、アメリカの「核の傘」に頼る現実を受け入れざるをえない

新聞各社の主張(条約に参加しない政府への賛否)

広島に原爆が投下されてから73年にあたる2018年8月6日、5紙全てが核廃絶をめぐる問題について社説で取り上げました。
核兵器禁止条約に参加しない日本政府の姿勢について、朝日新聞・毎日新聞が批判しているのに対し、日経は中立的な立場、読売新聞・産経新聞は政府の判断に賛成しています
産経新聞はさらに敵基地攻撃能力の議論を促すなど、「リベラルメディア」と「保守メディア」で意見が真っ向から対立しています。

朝日新聞政府を批判

朝日新聞は8月6日の社説「原爆投下から73年 核廃絶へ市民の連帯を」の中で、

条約の発効には50カ国の批准が必要で、まだその途上だ。それでも被爆者や核実験被害者の「受け入れがたい苦痛と被害」を繰り返さない決意を、世界の規範に刻んだ意味は重い。
ところが、日本政府は今も条約を拒絶している。理解しがたい。「核の傘」の下にあっても条約の趣旨に賛同するなど、前向きな姿勢は示せるはずだ。
昨年、長崎での式典後、安倍首相に対し被爆者団体の代表は「あなたはどこの国の総理ですか」と詰め寄った。世界の人々に届いた被爆者の声に、日本政府はなぜ耳を傾けないのか

などと指摘し、「核の傘」に守られていることの是非には踏み込んでいないものの、日本政府の姿勢を批判しています

毎日新聞政府を批判

毎日新聞は8月6日の社説「きょう広島「原爆の日」 「核廃絶」受け継ぐ教育を」の中で、

世界に核兵器の恐ろしさを知ってもらうことは政府の責任だ。しかし、安倍政権は「核の傘」を提供する米国の意向に沿って昨年、国連で採択された核兵器禁止条約に背を向けた。その後も核保有国と非保有国の橋渡し役となると言いつつ、具体的な成果は一向に見えてこない。
昨年、核兵器禁止条約採択に貢献した国際NGOがノーベル平和賞を受賞した。核廃絶への姿勢が後退したという疑念を拭い去ることができなければ、唯一の被爆国というテコを日本は失うことになる

などと、日本政府の取り組みに成果が見られないと批判的に指摘しています

日経新聞中立

日経新聞は8月6日の社説「被爆国として核の恐ろしさ伝え続けたい」の中で、

日本は唯一の戦争被爆国でありながら、安全保障で米国の「核の傘」に頼っている。政府は国連の核兵器禁止条約にも消極的だ。東西冷戦構造の下ではすませてこられた曖昧な立ち位置が、国際秩序の変化で浮き彫りになってきた。
核不拡散や核軍縮で日本は特別な役割がある。「核の傘」やアジアへの戦争責任の議論とは切り離し、核の恐ろしさについて国内外で発信を強めていくのが大事だ

と指摘。日本政府が置かれている立場を説明していますが、その是非には踏み込まず中立的なコメントです

読売新聞政府に賛成

読売新聞は8月6日の社説「原爆忌 核戦争のリスク減らす戦略を」の中で、

日本に対する核の脅威が続く間、米国の抑止力に頼る現実を受け入れざるを得ない。
昨年7月に採択された核兵器禁止条約は核兵器の生産、保有、使用を禁じる内容だ。核保有国はもとより、日本なども参加していない。世界の厳しい安全保障環境は条約の目指す姿と相いれない。批准が進まないのは当然だろう。
核軍縮を目指す立場から、日本は核保有国と非保有国の橋渡し役を担うことが求められる

などと指摘。アメリカの「核の傘」に守る現実を認め、核兵器禁止条約についても否定的で、この問題をめぐる日本政府に対する批判的なコメントはありません

産経新聞政府に賛成

産経新聞は8月6日の社説「原爆の日 平和守る現実的な議論を」の中で、

核兵器の使用を踏みとどまらせるのは、核抑止力である。米国やその核の傘の下にある日本が核兵器禁止条約に入っていないのは、妥当な選択といえる。
核の惨禍に見舞われないよう、日本はあらゆる手立てを尽くさなくてはならない。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入を進めつつ、敵基地攻撃能力を持つ議論も前進させたい

と主張。アメリカの「核の傘」に守られる日本が核兵器禁止条約に入らないのは「妥当」だと政府の判断を認めた上で、日本を観点から「敵基地攻撃能力」保有の議論を促しています

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