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「ホルムズ海峡の機雷除去」ってなに?

    集団的自衛権を行使する具体的事例として、国会で議論されたのは「ホルムズ海峡の機雷除去」でした。

    「ホルムズ海峡」は、中東のイランとオマーンにはさまれた海峡で、日本が輸入する原油の8割がここを通過します。ここに機雷(海の地雷)がまかれて通行できなくなる=封鎖されると、エネルギー調達に支障をきたすため、日本の存立が脅かされ、集団的自衛権の行使が想定しうると政府は説明しています。

    しかし、国内に半年分の石油備蓄があることなどから、「存立が脅かされる」とまではいえない、などの批判があります。その後、核開発問題をめぐるイランと欧米諸国の対立が緩和したため、この事例は一気に現実味を失い、政府も「想定していない」と答弁を変えました。

    機雷の除去は「集団的自衛権」の話なの?

    「集団的自衛権」とは、同盟国が攻撃された時に一緒になって反撃=「武力の行使」をする権利です。
    では、機雷を除去する活動は「武力の行使」にあたるのでしょうか。

    戦争中に機雷で海を封鎖するのは「武力の行使」にあたり、ばらまかれた機雷を取り除くこともまた「武力の行使」ということになるのです。
    憲法9条が「武力の行使」を(自国防衛を除いて)禁じているとの解釈のもとでは、自衛隊は戦時下の機雷除去活動を行うことはできませんでした。

    過去に機雷除去活動をしたことがある?

    1991年の湾岸戦争の時、自衛隊はペルシャ湾の機雷除去活動にあたりました。それが可能だったのは、参加したのが「停戦の後」だったためです。
    停戦前の機雷除去は武力行使にあたりますが、停戦後の機雷は「遺棄機雷」と呼ばれ、これを取り除くのは「危険物の除去」であり、「武力の行使」ではなく、憲法上も許される「警察権の行使」だと解釈されるのです。

    ホルムズ海峡に機雷がばらまかれるの?

    核開発をめぐって欧米諸国と対立しているイランは、欧米の経済制裁に反発して、ホルムズ海峡の機雷封鎖にかつて言及したことがあります(2011年12月)

    もし実際にイランがホルムズ海峡を機雷で封鎖すると、これはアメリカに対する「武力の行使」が発生したことになり、集団的自衛権を行使する新3要件の1つである「密接な関係にある他国(=アメリカ)に対する武力攻撃」が発生することになります。

    したがって、ホルムズ海峡が封鎖されることでエネルギー調達に支障をきたすことが、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」と評価されるかどうかが焦点となります。

    野党側は、

  • 国内には半年分の石油備蓄があるため、仮にホルムズ海峡が封鎖されても、「存立が脅かされる」事態とはいえない
  • そもそもイランは欧米と核問題をめぐり関係改善の方向であり、ホルムズ海峡が封鎖される事態は考えにくい
  • などと批判しています。

    核開発問題が決着して、イランが機雷敷設を否定した?

    2015年7月、イランと欧米諸国は、イランの核開発問題で合意に達しました。イラクが核開発を縮小する見返りに、経済制裁を解除する内容です。
    その後、7月23日にイランの駐日大使が日本記者クラブで行われた記者会見で、ホルムズ海峡にイランが機雷を敷設することを否定しました。

    このイランの核開発問題の進展によって「ホルムズ海峡の機雷除去」という事例は、一気に現実味を失うこととなりました。これを受けて、安倍政権の答弁も変化します。

    安倍総理は5月に衆院の安保法制特別委員会では、ホルムズ海峡での機雷除去が念頭にある事例だと答弁していましたが、その後トーンダウン。
    9月14日、参院の安保法制特別委員会で安倍総理は、「いま現在の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することを具体的に想定しているものではない」と述べました。

    集団的自衛権を行使する具体的事例として掲げられていた「ホルムズ海峡の機雷除去」は、核開発問題をめぐるイランと欧米諸国が合意に至るという国際情勢の変化によって、想定される事例から、想定されない事例へと変化したのです。